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天声人語

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2010年11月22日(月)付

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 茶器の名前には「見立て」が多い。薄茶を納める棗(なつめ)はずんぐりしたナツメの実が由来だし、濃茶(こいちゃ)の入れ物には、下膨れの姿から茄子(なす)と呼ばれる型がある。例えるものは、その形を広く知られていないといけない▼「ヤクルト」の容器が、立体商標と認められた。名前を伏せても、98%がこの乳酸菌飲料を思い浮かべるというから、ナツメやナスに劣らぬ識別力である。商品名以上に消費者の目を引くという知財高裁の結論は、信じたデザインを使い通す企業への敬意でもあろう▼ガラス瓶に代わり、プラスチック容器が登場したのは1968(昭和43)年。有名デザイナー、剣持勇(けんもち・いさむ)の晩年の代表作である。直線と曲線が織りなす宇宙船のようなフォルムは、子どもの目にも新鮮だった▼剣持は、伝統と機能を併せ持つ「ジャパニーズ・モダン」の意匠で知られ、わけてもイスの造形に多くの秀作を残す。軽くて小さいのに、なるほど、ヤクルトの容器も「座り」がいい。持ちやすさという実用の利が、どっしりと底に控えている▼知られた立体商標にコカ・コーラの瓶がある。自動車デザインでコークボトルラインといえば、多くが連想するあの曲線のこと。大衆に長く親しまれた容器は、商品の一部にして、文化遺産でもある▼茶人のたしなみを説いた「利休百首」に、〈名物の茶碗(ちゃわん)出でたる茶の湯には少し心得かはるとぞ知れ〉がある。由緒ある茶碗は心して扱えという教えは、立体商標の趣旨そのものだ。名茶碗で飲んでいると思えば、いつもの一服が滋味を増すかもしれない。

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