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80年以上も前、宇宙に浮かぶ地球を詠んだ人がいる。〈月から観(み)た地球は、円(まど)かな、紫の光であつた、深いにほひの〉と。北原白秋だ。色を夢想するのにも、月にまで飛んでしまうのが詩人の感性か▼紫にせよ青や緑にせよ、闇に輝く球体を自分の目で確かめた人間はまだ500人ほどらしい。宇宙飛行士が撮った写真や映像によって、およそこんな様子だろうと察しはつくが、昼夜の微妙な移ろいとなると今も詩歌の域である▼国際宇宙ステーションから撮影した「地球の夜景」に見入った。米航空宇宙局(NASA)の飛行士による地中海の写真だ。暗碧(あんぺき)の海にイタリア南部とシチリア島。「長靴に蹴(け)られる三角」の姿が金色(こんじき)に縁取られている▼今年配備された超高感度デジカメの威力で、肉眼の印象に近い、臨場感のある光景が撮れるようになったという。飛行体験のおすそ分けである。「子どもたちが地球や環境を考えるきっかけになれば」とは、同じカメラを宇宙で操った山崎直子さんの感想だ▼照明デザイナーの石井幹子(もとこ)さんは、地球の本当の色を知りたくて、月面に降りた米国の元飛行士に直接尋ねたことがある。答えは〈温かい青〉だった。寒色の極みである青にぬくもりを添えるのは、この星が宿す生命の息吹だろう▼NASAの写真には、地表の丸みに沿って黄の帯が薄く走る。大気の層と説明にある。球形の夜に散り敷かれた光点あまた。文明の証しと思えばいとおしい暖色も、青い素肌をむしばむ温暖化のシミに見えぬでもない。温かいのは遠景だけでいい。