HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 18 Nov 2010 22:12:54 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:ナラ枯れ クマたちは何を訴える:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

ナラ枯れ クマたちは何を訴える

2010年11月19日

 森が荒れ、おなかをすかせたクマたちが、頻繁に里へ下りてくる。クマが増えたからともいう。だが、すぐそばで、何らかの異変が進んでいるのは間違いない。物言わぬクマは何を訴える。

 紅葉が、ようやく里に下りてきた。だがよく見ると、赤や黄色の錦の間に、茶褐色の染みのようなものがある。ミズナラやコナラのような広葉樹が枯れていく、ナラ枯れと呼ばれる森の病害だ。

 ナラ枯れはここ数年、急速に拡大しつつある。林野庁の調査によると、昨年度は二十三府県で約二千五百ヘクタール、前年度の一・七倍だ。とりわけ愛知県では約十三倍にも広がった。

 ナラ枯れは伝染病である。カシノナガキクイムシ(カシナガ)という虫が媒介するナラ菌が、その原因だ。カシナガは幹回りの大きな老樹につきやすい。ナラ枯れのまん延は、老樹が増えて、カシナガが繁殖しやすいせいだという。

 高度経済成長以前、多くの人が石油ではなく、森を頼りに生きていた。森は、薪や炭を与えてくれる大切なエネルギー供給基地だった。里山とは人が日常的に出入りして、利活用する山だった。だからカシナガの繁殖も、おのずと抑えられていた。

 ナラ枯れに不作が重なって、えさになるドングリが乏しくなり、クマが里に下りてくる。ナラ枯れも、近ごろ頻繁なツキノワグマの出没も、人と森、人と山とが疎遠になった証しである。人間の作為と不作為による森や里山の荒廃は連鎖して、結局は人の暮らしに跳ね返る。影響はやがて、水枯れや気候変動などのかたちで都市にも及ぶ。名古屋の生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)は、こうした悪循環を食い止めるために開かれたのではなかったか。

 COP10では、利用と保全が表裏一体だった里山を、自然との共生モデルとして、日本から世界に紹介しようという「SATOYAMAイニシアティブ」を採択した。お手本とされる日本の山を、これ以上荒らすべきではない。

 林野庁は間伐や林道整備を補助する直接支払制度創設に向け、約五百三十億円の予算を要求中だ。このように、森や里山の維持管理には巨額の費用がかかる。

 行政だけで負いきれるものではない。千葉県や宮崎県では地域住民でつくる協議会などと自然保護団体、そして行政による官民一体の共同管理の試みが進んでいる。ナラ枯れもクマの出没も、人が森をどう守るべきかを問うている。

 

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