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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
策士で知られたフランスの政治家タレーランに「言葉は思うところを偽るために人に与えられた」の一言がある。ナポレオン戦争後のウィーン会議で、敗戦国でありながら権謀術数を駆使して列強を手玉に取った伝説的な人物だ▼ひるがえって柳田法相は、術策とは無縁な、正直な人柄なのだろう。「答弁は二つ覚えておけばいい」とあけすけに言い放ち、批判がやまない。正直と失言は往々にして紙一重だ。発言は聞き捨てならないが、答弁の現状がその通りであることが、いっそう問題ではあるまいか▼法相ばかりではない。きのうの川柳欄にさっそく〈総理なら遺憾が言えたら大丈夫〉の寸鉄があった。紋切り型、とぼけ、はぐらかし、勉強不足……。ときに死語の羅列のような答弁に、国民はとうに気づいている。それは菅政権の掲げる「熟議」からは遠い▼金看板の政治主導からも遠い。法相の「二つの答弁」は官僚の入れ知恵だろう。役人の授けた「弾(たま)よけ」に隠れて質問をかわす。昔ながらの図は旧政権と変わらない▼「傾聴に値するご高説を賜り、今後検討に検討を重ね、鋭意善処してまいります」。これが「やりません」であることは、長い官僚主導の政治をへた常識だ。新政権で改まった実感のないのがもどかしい▼「脱官僚」は、まず「脱・官僚言葉」であろうと前に小欄で書いた。官僚語の御利益(ごりやく)を語って得意げな法相に、政治主導の虚構を見る思いがする。答弁では死語に引きこもり、失言が生きた言葉として騒がれる。この皮肉を、どうお考えだろうか。