探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の微粒子を大量に捕捉していたことが分かった。世界初の快挙だ。最近、勢いが見られないわが国の科学技術に自信と活力を取り戻すきっかけにしたい。
「はやぶさ」は二〇〇三年五月に打ち上げられ、〇五年十一月、目標の「イトカワ」に着陸し、ことし六月に地球に帰還した。探査機本体は大気中で燃え尽きたが、カプセルは無事、回収された。
イオンエンジンを初めて本格的に使用し「イトカワ」に到達したことで最初の目標を達成した。燃料漏れに伴う姿勢制御不能などのトラブルを乗り越えて予定より三年遅れながらも地球に帰還。加えて「イトカワ」の岩石試料の採取まで成し遂げたのだから三重の成功といっていい。
地球や火星など惑星は「イトカワ」のような小惑星が合体して形成されるが、その過程で高温のため溶けて混ざり合うため、初期の様子を伝える情報が失われる。
小惑星はこうした熱変性を受けていないので地球を含む太陽系の成立時の情報を保存している可能性が高い。小惑星で直接採取した試料が注目されるのは、今後の分析を通じ太陽系の成立の謎の解明につながると思われるからだ。
隕石(いんせき)の多くは小惑星の破片だが、大気圏通過の際、高温にさらされて性質が変化することが多いうえ、どこから飛んできたか不明などの難点があり、試料としての価値は直接採取に及ばない。
世界初の快挙を支えたのは地道な研究の積み重ねである。
「はやぶさ」の開発費用は百三十億円。内外の宇宙開発の中では格段に少ない額である。
それでも後続の「はやぶさ2」の開発に向けた今年度予算は現政権によって大幅に削減された。
六月の「はやぶさ」帰還で国民が沸いたのを受けて開発に前向きの姿勢を見せ始めたが、まだ先行きは不透明だ。
資源が乏しい日本は「科学技術立国」を目標としなければならない。それには常に世界一を目指す必要がある。それでも一位になれるとは限らない。
わが国が持続的発展のために長期的な戦略で取り組むべきとする「国家基幹技術」の一つ・スーパーコンピューターの分野で、中国は十一月、米国を抜き世界最速の演算速度を達成した。かつて一位の日本は四位と後退は顕著だ。
政府は国際競争に負けない科学技術の長期的な国家戦略を明確に示す必要がある。
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