HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17371 Content-Type: text/html ETag: "45810e-43db-a6f07800" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 18 Nov 2010 00:21:43 GMT Date: Thu, 18 Nov 2010 00:21:38 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年11月18日(木)付

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 明治生まれの俳人竹下しづの女(じょ)は気丈な人だった。夫が脳卒中で倒れたとき急を知って駆けつけた。意識が遠のく夫の耳元に口を当て、「子供は立派に育てます。心配なさるなっ」と声をかけたそうだ(宇多喜代子著『名句十二か月』)▼その気丈な人が、〈たゞならぬ世に待たれ居て卒業す〉と詠んだのは、長男が旧制高校を出た1937(昭和12)年だった。前年に二・二六事件があり、この年に日中戦争が勃発(ぼっぱつ)する。世情が暗く傾く中、母の不安が伝わる名句とされる▼時代も事情も違うが、いま同じ思いの親御さんもおられよう。卒業まで半年を切った学生の就職難がとりわけ厳しい。政府によれば、大学生の内定率は10月1日の時点で57%にとどまる。かつての「氷河期」を下回る最低の数字だ▼「ただならぬ世」に加えて、今の就職活動は長い。去年の秋に始まり、夏の猛暑を汗だくで駆け、2度目の木枯らしに吹かれる人は心細いだろう。再三の不採用に「人間を否定されている感じ」と唇をかむ学生がいた。先行世代の責任を痛感する▼企業の採用活動が早すぎる問題は古くて新しい。昭和20年代の末に、東大教授だった中野好夫が「花園荒らしはやめてくれ」と書いている。4年生の9月からでさえ「専門教育の4分の1を奪う」と厳しい。いまの様子を知ったら怒り心頭だろう▼中野はまた、学生を「役に立つ」「間に合う」ではなく可能性の存在として見るように訴えていた。人を「宝」とする企業との良縁に出会えるよう、いまも扉を叩(たた)く人にエールを送る。

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