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11月17日付 編集手帳

 音楽事務所の名を『紙の舟』と付けた。名刺の肩書には「社長」ではなく「船頭」と印刷した。流行歌とは浮かべれば沈む紙の舟に似て、はかないものだから、と。星野哲郎さんである◆山口県の周防大島に生まれ、海にあこがれて商船学校に進んだが、結核性の肺浸潤を患い、船乗りの夢は(つい)えた。島に帰り、治療費もなく、26歳までの日々を寝たきりで過ごすなかで、作詞家の人生ははじまっている◆自身の作品を演歌ならぬ「塩歌」と呼んだ。潮風と、処世の涙と、胸にしょっぱい名曲の数々を残し、星野さんが85歳で死去した◆4000曲を超す作品のなかで“会心の一節”は? 生前、本紙の取材に星野さんは名コンビ船村徹さんとの『なみだ船』を挙げた。〈涙の終わりの ひと滴/ゴムのかっぱに しみとおる…〉。ファンにとっての忘れ得ぬ一節は人それぞれだろう。たとえば『出世街道』〈他人(ひと)に好かれていい子になって/落ちていくときゃ独りじゃないか〉、あるいは『男はつらいよ』〈止めに来るかと(あと)振り返りゃ/誰も来ないで汽車が来る〉…◆今宵(こよい)は、さて、どの舟をグラスに浮かべよう。

2010年11月17日02時55分  読売新聞)
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