「素朴な質問ですが…」と前置きして、女性の裁判員が被告にこんな質問をした。「時間を巻き戻せるとしたら、どこに戻りたいですか?」。被告の答えは学生時代だった。「もっと本を読んでいたら、根本的なところから変われたかもしれない」と▼マージャン店経営者ら二人を殺害したとして、強盗殺人罪などに問われた男に、横浜地裁はきのう、裁判員裁判として初めて死刑判決を言い渡した。冒頭の問いは、審理の終盤にあった被告人質問の場面だった▼裁判員は被告に直接質問を重ね、被告が見たという罪の償いをテーマにした映画に触れた人もいた。死刑求刑を想定して、判断の材料を多く引き出したい。そんな思いが伝わった▼六日間の審理、三日間の評議を経て究極の判断を下した六人のうち、記者会見に応じてくれたのは男性一人。「すごく悩んだ。何回も涙を流し、今も思い出すと涙が流れそう」との言葉が心に響く▼裁判長が控訴を勧めた異例の説諭は裁判員の意向が働いたのだろうか。将来、刑が執行されたことを知れば、精神的な苦痛を味わうかもしれない。重い守秘義務は墓場までついて回る▼人命を奪う判断を市民にさせる過酷な制度であると同時に私たちが目をふさぎ、国が隠すことで維持されてきた死刑を「可視化」する機会でもある。何度も書く。まだまだ死刑の情報公開が足りない。