むっつりした表情で握手を交わし席に着いた菅直人首相と中国の胡錦濤国家主席。それは領土問題をめぐる対立など多くの問題を抱えながら再びスタートラインについた両国関係を象徴していた。
会談で菅首相が「両国は一衣帯水」と関係の近さを強調すると、胡主席も「関係改善、発展について話し合いたい」と応じた。
首脳会談が実現するまでの道のりは実に険しかった。九月下旬、尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件で日本が逮捕した船長を釈放しても、中国は謝罪と賠償を要求し強硬姿勢を崩さなかった。
十月初め、ブリュッセルで菅首相と温家宝首相が非公式に懇談し緊張緩和を申し合わせた。しかし、日中両国で相手に対する抗議デモが起き、反発が表面化した。
国内の強硬論に気兼ねした温首相は十月末、ハノイで予定していた菅首相との会談を直前にキャンセルした。横浜の首脳会談も、直前に尖閣事件のビデオ映像が流出したこともあり、外交当局の折衝では開催が決まらなかった。
菅首相が強く要望した会談が実現したのは、今回も会談を避ければ、中国国内の対日強硬論に拍車をかけかねないことを心配した胡主席の決断によるものだろう。
ただ、会談内容は関係改善への転換には程遠い。対立のきっかけになった中国漁船衝突事件については突っ込んだ意見を交わすこともなく、レアアースの対日輸出制限など事件がもたらした影響の解決策も話し合われなかった。
東アジアの二大国が角突き合わせることをやめ、戦略的互恵関係を目指す立場に立ち戻ることを確認するのが精いっぱいだった。
同じことが北方領土問題を抱えるロシアとの関係にも言える。
菅首相はメドベージェフ大統領の国後島訪問が「国民感情から受け入れられない」と抗議したが、大統領は訪問を正当化する立場を変えようとしなかった。
北方領土をめぐり「最終的に平和友好条約を締結し協力関係を発展させる」という、戦後対ロ外交の原則を繰り返し主張したにとどまった。
菅政権の「外交試運転」が招いたトラブルは、ようやく収拾の方向が垣間見えた。しかし、その代償はあまりに大きかった。
菅首相は一連の外交失策の原因を洗い出し立て直しの方策を早急に示さなければならない。国民は、もはや危なっかしい運転に任せてはいられない。
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