都道府県同士が連携する全国初の行政組織「広域連合」が関西で発足する。地方分権の受け皿を担おうとする積極性は評価したい。他方、暮らしや経済は向上するのか、得も損も知らせてほしい。
関西広域連合は大阪、京都、滋賀、兵庫、和歌山に鳥取、徳島を加えた計七府県で構成。地方自治法の特別地方公共団体だ。当面は防災、観光・文化、産業振興、医療、環境保全、資格試験、職員研修の七分野三十一事業で、来月にもスタートする。
事業例の一つはドクターヘリだ。大阪などが導入している計三機を広域連合に移管すれば、保有のない滋賀でも運用できるようになる。府県境を越えた病院搬送もスムーズとなり、救急患者の“たらい回し”も改善される。住民の安心につながればいい。
外国人向けの広域観光ルートづくりや、通訳ガイドの育成・登録は相乗効果が期待できよう。将来は関西三空港をはじめ港湾、河川、道路の一元管理を視野に入れ、国の出先機関から事務権限の移譲を目指していく。小さく産んで大きく育てばいい。
財政規模は年間四億円で、各府県が事業の受益に応じて負担する。奈良県は「数千万円に上る負担金に見合うメリットが感じられない」との理由で不参加を決めた。観光も、独自で発信した方が効果的との立場だ。三重、福井両県も参加を見送っている。
そもそも関西広域連合は経済界の提言をきっかけに、知事間で議論を詰めてきた「上からの改革」といえる。広域になればなるほど行政と住民との距離が遠くもなりがちだ。だからこそ、日々の生活の何をどう良くするために、どれだけの税金を投じるのか、実践を通じて分かりやすく示してほしい。でなければ「屋上屋を架す」だけの無駄になってしまう。
国の出先機関廃止は霞が関の抵抗で全く進まない。「地方には受け皿がない」と各府省は言い訳するが、広域連合には通用しなくなる。ならば出先移管の先行モデルと考えればどうか。大阪、京都、滋賀、三重の四知事は、国の大戸川ダム(大津市)計画を凍結させた実績もある。
関東でも首都圏広域連合を視野に入れた動きが具体化し始め、九州七県は広域行政機構(仮称)の設立を目指すことを合意した。いずれも、議論が進まない道州制とは一線を画しながら「国から地方へ」という地域主権を進める動きであり、実効性を注視したい。
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