「私がディープスロートと呼ばれた男だ」。ニクソン米大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件で、ワシントン・ポスト紙の情報源として、元FBI副長官のマーク・フェルト氏が名乗り出たのは、事件から三十年以上たった二〇〇五年のことだった▼情報提供を受けたボブ・ウッドワード記者によると、直接の捜査情報を提供されたことはなく、取材で得られた情報の確認と方向性を示唆してもらったという▼調査報道の金字塔とされるウォーターゲート事件をはじめ、内部告発や情報提供の「受け皿」はこれまで新聞やテレビ、雑誌などのマスメディアだった。その歴史がいま、塗り替えられつつある▼中国漁船衝突事件の映像を流出させた内部告発者が、マスメディアを素通りして選んだのは、インターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」。その映像をテレビ、新聞が競って報じる異例の事態だ▼元ハッカーらが設立した内部告発サイト「ウィキリークス」は、イラク駐留米軍の内部文書やアフガニスタンでの対テロ戦争に関する機密資料を公開、米政府を震撼(しんかん)させている▼内部告発は世界的にもネットが中心になりつつあるが、新聞などマスメディアにしか果せない役割があるはずだ。ウォーターゲート級の事件を掘り起こすためには何が必要なのか。今回の流出問題は、そんなことも考えさせる。