「最期の晩餐(ばんさん)には何を食べたいですか?」。テレビ番組で落語家の古今亭志ん朝さんが「うなぎ」と答えたのを見て、姉の美濃部美津子さんは驚いた。嫌いだから食べないと思い込んでいたからだ▼実はうなぎは大好物。噺家(はなしか)になったばかりのころ、「芸が上達するように」とお参りしていた寺の本尊が、うなぎを使いとする虚空蔵菩薩だったため、六十三歳で亡くなるまで、一度も口にしなかったのだ▼大きな目標を成し遂げるために、好きなことを断つ人は少なくない。今年、史上最年長となる四十五歳での完封勝利を挙げた中日の山本昌広投手は昨シーズンのオフ、プロ級の腕前であるラジコンを封印した▼引退を懸けて臨んだ今季、けがで出遅れたが夏場に5勝。チームの救世主になった。目指したのはいまだ果たせぬ日本シリーズでの初白星。しかし、またもやかなわぬ夢に終わった▼チームは3位から勝ち上がってきた千葉ロッテに力負け。一九八二年に中日がリーグ優勝した時に付けられた「野武士軍団」という言葉を想起させるたくましさがロッテの選手にはあった。落合監督が語ったように中日には「何か」が足りなかった▼来年、四十六歳になる「中年の星」は、来季も現役続行が決まった。チームに足りなかったのは何か。山本投手が来年、シリーズ初勝利をもぎ取ることで、その答えは見えてくる。