HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17351 Content-Type: text/html ETag: "46dd8-43c7-91bed900" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 08 Nov 2010 01:21:11 GMT Date: Mon, 08 Nov 2010 01:21:06 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年11月8日(月)付

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 野に咲く一輪を花器に挿す。根を切られ、植物から「飾物」になっても花はきれいだが、世には持ち運べない美がある。景勝地、建築物、一瞬の夕焼け。どれもそこにいないと拝めない▼壁にかけた絵と、壁にかいた絵。一字の違いながら、切り花と野花以上の差異がある。前者は軽やかに部屋を渡り、乱世をくぐる。後者は建物の一部として大地に根づき、戦火に消えることも多い。壁画に携わる者には、歴史と運命を共にする覚悟が要る▼フランス在住の画家、高橋久雄さん(74)も覚悟の人とお見受けした。かれこれ40年、50ほどの教会で壁画を修復してきたが、昔人の業をたどるうちに自作の欲が膨らんだ。ブルゴーニュ地方で12世紀の古城跡を買い入れ、この夏、石造りの塔の内壁に宿願の筆を入れた▼「歴史遺産を異邦人にいじらせるところがあの国の雅量でしょうか。私が修復した無名画家たちのように、21世紀に何か残したい」。仏政府公認の修復家にして、地元オータンの名誉市民ゆえに認められた創作である▼生乾きの漆喰(しっくい)に絵の具を塗り込むフレスコの技法で、どこの壁にもないブルゴーニュ公の物語を5年で描くという。フランス人が京都で宮大工をするようなものだろう。当たり前を超える仕事が求められる▼古城の基礎は2千年前の物という。ローマ人がまいた種が中世に枝葉を伸ばし、今に生きる日本人が花を咲かす。花は一人の画家が異郷に生きた証しにとどまらない。あるがまま保存するのではなく、積み重ねて熟す文化財があると知る一輪になる。

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