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2010年11月8日(月)付

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太平洋FTA―通商国家の本気を示せ

アジア太平洋の広い地域にまたがる巨大な自由貿易地域づくりに向けて積極姿勢を示すのか。それとも、あいまいな態度に終わるのか。横浜市で13日から開くアジア太平洋経済協力会議[記事全文]

HTLV対策―苦しみを次世代に残すな

「この苦しみを次の世代に残さないで」。心の底からの悲痛な叫びがようやく政府に届いた。ウイルスが感染して起きる血液のがん、成人T細胞白血病(ATL)。その原因ウイルスであ[記事全文]

太平洋FTA―通商国家の本気を示せ

 アジア太平洋の広い地域にまたがる巨大な自由貿易地域づくりに向けて積極姿勢を示すのか。それとも、あいまいな態度に終わるのか。

 横浜市で13日から開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、議長国・日本の決断が問われようとしている。通商国家として世界経済の新たな発展の道筋に貢献するためにも、日本経済の浮揚のきっかけをつかむにも、菅直人首相の指導力が求められる場面である。

 菅首相は今国会の所信表明演説で、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」に「参加を検討する」と表明した。米、豪、チリ、マレーシアなど太平洋を取り巻く9カ国が参加し、関税を撤廃した完成度の高い自由貿易地域づくりをめざしている。

 通商国家として生きるしかない日本にとって、環太平洋に自由貿易圏が出来ようとしているのに参加しないという選択はありえない。首相が参加に意欲を示したのは当然のことだ。

 ところが、農産物の輸入自由化を恐れる農業団体がTPPに反対の声をあげ、民主党内で反対論が勢いづくと、首相の姿勢は揺らいだ。

 菅政権は閣僚委員会でTPPについて「情報収集を進めながら対応し、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」との基本方針を決めた。だが、こんな姿勢では、あいまいすぎる。

 日本は、自由貿易協定(FTA)交渉で出遅れた。韓国は来年7月に欧州連合(EU)とのFTAを発効させる。米国とのFTAも合意ずみだ。日本の自動車、電機メーカーは、韓国企業より不利な立場に置かれる。

 これは放置できない。円高ドル安で採算が悪化している輸出企業は、ただでさえ工場の海外移転を活発にしている。これ以上、工場の国内立地が不利になる環境になれば、雇用への影響はより深刻になる。

 日本経済の再生には「雇用、雇用、雇用」だと訴える菅首相の考えを貫くためにも、TPP参加は優先的に進めるべき政策のはずだ。

 日本の農業は耕地面積が減って生産規模が縮小し、高齢化で担い手が不足するという構造問題を抱えている。このままでは将来はなく、抜本改革を迫られている。TPP問題はむしろ、農業の新たな発展のための改革に取り組む好機ではないか。

 APEC首脳会議の主要テーマは、環太平洋の自由貿易圏づくりである。議長の菅首相がここでTPP参加を宣言すれば、日本の針路をはっきり指し示すと同時に、APECの未来の展望も開けてくる。中国などの前向きな姿勢を引き出し、東アジア自由貿易圏づくりを加速する力ともなろう。

 首相はここで迷ってはいけない。

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HTLV対策―苦しみを次世代に残すな

 「この苦しみを次の世代に残さないで」。心の底からの悲痛な叫びがようやく政府に届いた。

 ウイルスが感染して起きる血液のがん、成人T細胞白血病(ATL)。その原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)の抗体検査を、妊婦健診のときに公費負担で受けられるようになった。加えて、官邸に設けられた特命チームが総合対策づくりを進めている。

 難病の脊髄(せきずい)症(HAM)を発症する恐れもある。国内の感染者は推計で約108万人。B型肝炎やC型肝炎に匹敵する多さだ。

 ウイルスに感染して発症する率は成人T細胞白血病が3〜5%、潜伏期間は50年前後とされる。脊髄症の発症率は0.3%だ。感染してもすぐには、ほとんどの場合は何も起こらない。

 だが発症すれば、成人T細胞白血病の平均生存期間は約13カ月とされ、毎年千人以上の患者が亡くなっている。

 脊髄症は歩行や排尿に障害が出る症状が悪化すると、車いすや寝たきりのつらい闘病生活を強いられる。

 患者やその家族から見れば、これまでの国の対応は鈍すぎた。それだけに関係者の切実な要望に政府が重い腰をあげたことは評価していいだろう。

 救済の遅れは国の認識不足が原因だ。1990年の旧厚生省研究班の調査で九州・沖縄の感染者が全体の半分以上を占め、地域により感染率に差があった。そのために風土病ととらえ、対応を自治体任せにしてきたのだ。

 最近の調査では、九州や沖縄の感染者は減っているのに、関東などで増えていることがわかった。このウイルスの根絶には全国で徹底した対策が必要という見方が強くなってきた。

 このウイルスは授乳による母から子への感染が多い。感染した母親が6カ月以上、乳児を母乳で育てた場合、子への感染率は約20%になる。粉ミルクでの育児や3カ月以内の短期授乳なら感染を抑制できるとのデータがある。

 当面の課題は母子感染の防止だ。妊婦健診の100%受診を実現する。感染がわかった場合は母親に安全な育て方を教え、次の世代への感染を止めなければならない。

 感染がわかった母親の相談に応じる精神的ケアにも、十分な配慮がいる。鹿児島市のNPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」や患者会など、経験者の助言を生かすカウンセリングを考えたい。

 残念ながら、成人T細胞白血病も脊髄症も治療法が確立していない。

 有効な治療法の開発に、政府は力を入れなくてはならない。このウイルスについて詳しく知る人は小児科医などの間でも決して多くない。まずは全国の医師や保健師などを教育し、知識のある人を育てることが第一歩だ。

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