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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
この時期、歌手の本田美奈子さんをしのぶ人もいるだろう。38歳の早世から5年、きのうが命日だった。3オクターブを行き来したという澄んだ歌声は、外気がりんとする季候が似合う▼本田さんは晩年、姓名の画数を一つ増やすべく末尾に「・」をつけた。何事にも最善を尽くす、一途で前向きな人だったと聞く。初のミュージカルに挑んだ時は、のどを痛めまいと家族とは筆談で通したそうだ▼急性骨髄性白血病との闘いは10カ月で終止符を打たれたが、復帰を信じて治療に耐える姿は共感を呼んだ。薄紅の衣装の本田さんが胸に残る。右手でマイクを握り、左の拳を突き出したその写真は、骨髄バンク支援の公共広告に使われた▼日本骨髄バンクのドナー登録者は約37万人。5年で15万人増えたものの、彼女がキャンペーンに登場した4年前をピークに、増勢は鈍りつつある。ドナー登録は55歳で抹消され、片や骨髄移植を待つ人は毎月200人ほど増えるので万全とはいえない▼6割の患者が移植に至るも、登録から5カ月近くかかることが多い。綱渡りで命をつなぐ日々はつらいけれど、治りにくいタイプの白血病にも、よく効く薬が開発されているという。きょうを生き抜くことで、あすのチャンスが広がる▼〈水晶のごとく冷たく透きとほる心となりて冬に入るかな〉茅野雅子。歌姫が逝った年のように、明けて立冬である。病に伏し、迫り来る試練に身構える人がいる。その先に待つ、光の時を見すえる人もいよう。透き通る季節に、人の善意や希望もひときわ輝く。