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11月5日付 編集手帳

 鹿児島城の玄関前には立派な棕櫚(しゅろ)の木が植わっていたらしい。薩摩藩主の島津家久は江戸城内で閑談の折、老中松平信綱にその木を自慢した。兵法史家、奥瀬平七郎氏の随筆『江戸の隠密』にある◆聞き終えて信綱のいわく、「我等(われら)はその棕櫚の木を見たことはないが、根元に文箱(ふばこ)が埋まっているのは知って()り申す」。驚いた家久が国元に使者を立てて根元を掘らせたところ、文箱が出てきた。「隠密御用心」と書かれた紙が入っていたという◆以後、家久の言動は目立っておとなしくなったとか。挿話の実否はともかくも、「こちらの手の内はどこまで知られているのか」、疑心暗鬼が軽挙妄動の抑止力として働くのは、いつの世も変わるまい◆逆に手の内をさらすとは()()の限りである。国際テロ捜査に関する警視庁の内部文書らしき資料が大量流出した。テロの抑止力を損ない、情報漏洩(ろうえい)を警戒する海外の捜査機関からは蚊帳の外に締め出され、捜査協力者の身には危険が及びかねない失態である。徹底した調査を望む◆テロリストが棕櫚の根元に埋めるのは文箱などではない。もっと禍々(まがまが)しいものだろう。

2010年11月5日01時52分  読売新聞)
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