「れ」。この文字を見て、何を思われるだろうか。多分、多くの読者は小欄筆者と同じだろう。特に何にも思わない▼この『れ』を題にした子どもの詩を、作家の北村薫さんが『詩歌の待ち伏せ』の中で紹介している。<ママ/ここに/カンガルーがいるよ>。多くの読者は小欄筆者と同じだろう。一瞬、ウン?▼題と詩を目が何度か行き来して後(のち)、なるほど、その子には「れ」という文字の形がカンガルーに見えたんだ、となる。だが、本当はこう言うべきだ。その子は、そこにカンガルーを見ることができたが、私たちにはできなかった、と▼ことほど左様に、大人には見えず、幼い子どもにしか見えないものがある。当然、十代の時にしか味わえない感覚も。そういう意味では、どんな本にいつ出会うかは重要である▼筑摩書房編集部編『17歳のための読書案内』で、経済学者の岩井克人さんは、お薦めとして挙げた『ハックルベリー・フィンの冒険』など三冊をこう表現している。<若いときに読んでおかなければ取り返しがつかなくなる書物>▼確かに、ある年ごろでないとその養分を十分に吸収できない本というのは少なくない。若者よ、書店や図書館に急げ。こちらは<中年のうちに読んでおかなければ取り返しがつかなくなる書物>を読まないと。読書週間はあと数日。だが、読書の秋はもう少しは続くはず。