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天声人語

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2010年11月5日(金)付

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 「微苦笑」というのは作家の久米正雄の造語だという。その微苦笑を、きのうの社会面の記事に誘われた人もいたのではないか。京都の大徳寺の塔頭(たっちゅう)、真珠庵(しんじゅあん)にある一休さんの肖像画に、アライグマの仕業らしき穴が見つかった▼絵の中の一休さんは、その穴を困り顔で眺めているようにも見える。絵は日本画家高橋玄輝の大作で、縁側に立ててあった。動かすと、幅の広い額縁の上から柿が一つ転がり落ちたそうだ。下手人が残していったらしい。どこか禅味があって、憎めない話である▼だが微苦笑してすむ話ではない。近年、外来種のアライグマが急増して狼藉(ろうぜき)が著しい。世界遺産の二条城、国宝の平等院鳳凰堂の壁や柱を爪(つめ)でひっかき、傷をつけた。清水寺も東大寺も被害に遭い、重文の仏像がやられた寺もある。他にもあって、古都の社寺は戦々恐々という▼農産物の被害も全国で増えている。だがアライグマにも言い分はあろう。頼みもしないのに故郷の北米から連れてこられ、あげくに捨てられた。罪作りは人間様でしょう――▼日本は世界でも指折りの動物輸入大国だという。そして捨てられる。たとえば首都圏の多摩川では200種を超す外来魚が見つかっているそうだ。アマゾン川ならぬ「タマゾン川」とも呼ばれている▼頓知(とんち)話で、一休さんは屏風(びょうぶ)絵の虎を退治せよと難題を言われる。「捕まえますから虎を屏風から追い出してください」は知られた妙答だ。今度は自分が絵になって外来の獣にやられかけた。人為による生態の混乱を、泉下で憂えていよう。

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