国産初の小型ジェット機、MRJ(三菱リージョナルジェット)の生産が始まった。事業を採算ベースに乗せるには課題も多いが、空洞化が進む日本のモノづくりに活気を取り戻す契機にしたい。
MRJは、座席が七十席級と九十席級の二タイプ。二〇一二年の初飛行を目指して開発を手掛けるのは、三菱重工業の子会社の三菱航空機だ。大型機より燃料費高騰の影響を受けにくく、五十席級と比べると一座席当たりのコストが安いことから、世界の航空業界で最も需要の伸びが期待されるクラスである。
決して新規参入が楽な市場ではない。圧倒的な強さを誇るのはカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルの二社。中国やロシアのメーカーも開発を急いでおり、ライバルは多い。
MRJの最大のセールスポイントは経済性である。機体に炭素繊維複合材料を使って軽量化を実現するとともに、米メーカー製の高性能エンジンを採用することにより、同タイプ機に比べ、燃費を約20%削減できるという。既に全日本空輸と米国の地域航空会社から計百二十五機を受注したのも、こうした点が評価されたからだ。
国産機といえば、真っ先に思い浮かぶのはかつての日本海軍の主力戦闘機で、名機といわれた零戦(零式艦上戦闘機)だろう。だが戦後の民間機生産は挫折の歴史でもある。通商産業省(現経済産業省)が音頭をとって官民一体で開発したプロペラ旅客機「YS11」は技術面では一定の評価を得たものの、高コスト構造がたたって三百六十億円の赤字を抱えて生産中止に追い込まれた。約四十年ぶりの国産旅客機への挑戦は朗報だし技術力の維持にもつながる。
今、日本の製造業は大きな転換期を迎え、成長をけん引してきた自動車大手は生産の海外移転を加速させている。トヨタ自動車の豊田章男社長は国内生産へのこだわりを強調するが、円高が続く中、個々の企業の対応にはおのずから限界もあろう。
国産旅客機の生産は、さらなる空洞化の危機にあるモノづくりに新たな息吹を吹き込む可能性を秘める。企業にとって大きなリスクを伴う事業ではあるが、軌道に乗れば部品業界などすそ野への波及効果も大きい。
価格だけでなく安全性、低燃費、耐久性などをどう売り込むか。知恵が求められるのは無論だが、技術立国・日本の復活に気概をもって挑んでほしい。
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