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リベラルな大統領誕生に米国が熱狂した2年前が、遠い過去に思える。オバマ大統領は米議会の中間選挙で、国民の厳しい審判を受けた。大統領の率いる民主党が下院で過半数を割り、野[記事全文]
「安全」のかけ声がマンネリに陥ってはいないか。JR宝塚線の脱線事故が起きた兵庫県尼崎市の現場カーブに、快速電車が制限速度を超えて進入し、自動列車停止装置(ATS)が働い[記事全文]
リベラルな大統領誕生に米国が熱狂した2年前が、遠い過去に思える。オバマ大統領は米議会の中間選挙で、国民の厳しい審判を受けた。
大統領の率いる民主党が下院で過半数を割り、野党共和党に主導権を奪われた。上院はかろうじて多数を保ったものの、大幅に議席を減らした。中間選挙は、そのまま2年後の大統領選挙を占うものではない。だが、オバマ氏は再選に向け、戦略の全般的な練り直しを迫られることになった。
選挙前の世論調査で、約6割が経済・失業問題を最大の関心事と答えた。大恐慌以来の経済危機は最悪の事態を回避したが、巨額の財政出動にもかかわらず景気回復が軌道に乗らない。失業率は9%台だ。渦巻く国民の不満が民主党離れを増幅した。
大統領が政権の命運をかけて実現した医療保険改革も、その恩恵が十分感じられる前に、「大きな政府」のシンボルとして攻撃の的となった。
共和党を押し上げたのは草の根保守のティーパーティー(茶会)である。独立革命期の米国で、英議会が制定した茶税法に反対して、東インド会社の船に忍び込み、積み荷を海中に投じたボストン茶会事件にちなんで始まった市民運動だ。様々な主張をもつ保守勢力を、政府支出への反対という一点に絞って団結させ、「反オバマ」のうねりを引き起こした。
ホワイトハウスは今後、民主、共和でねじれた議会を相手に、政治的駆け引きを強いられる。すでに財政赤字が膨らんでおり、減税などの景気刺激策にも限りがある。医療保険改革も共和党次第で後戻りしかねない。
内政に手詰まると、外交にも影響が及ぶだろう。アフガニスタン戦争にどう終止符を打つか。「京都議定書」以後の地球温暖化防止交渉をどう打開するか。北朝鮮やイランの核問題でどのように国際協調を強め、「核のない世界」へと歩を進めるか。中国が台頭する東アジアで、基地問題でつまずいている日本との関係をどう組み立て直すか。米国の指導力なしに前に進めない課題が国際社会にたくさんある。
内政、外交ともに、茶会ブームに乗って共和党が議席を増やした議会の動向が、鍵を握る。茶会には医療保険への政府介入を撤廃する「完全自由化」などの極論もあり、共和党本流とは異なる点も多い。また、茶会の後押しを受けた議員たちが、どれだけ国際問題に目を向けるか疑問である。
世界は多極化しているが、今も米国が一番大きな極であり、米国にはそれにふさわしい責任がある。
議会も大統領も、これ以上の内向き志向に陥ってはならない。グローバル化時代にふさわしい国際感覚を持って議論を重ね、米国の持つ問題解決能力を十分に発揮する政治を望みたい。
「安全」のかけ声がマンネリに陥ってはいないか。
JR宝塚線の脱線事故が起きた兵庫県尼崎市の現場カーブに、快速電車が制限速度を超えて進入し、自動列車停止装置(ATS)が働いて非常停止するという出来事があった。
事故後に設置されたATSのおかげで、今回は事なきをえたものの、大惨事を思い起こした人も少なくなかったであろう。
気になるのは運転士が「考え事をしていてブレーキが遅れた」と話していることだ。あれだけ叫ばれた安全意識の向上はどうなったのだろうか。
JR西日本では最近、運行の現場で不祥事や事故が相次いでいる。
緊急時に周辺の列車に信号を送る防護無線の予備電源からヒューズを抜き取った容疑で、車掌が逮捕された。
山陽新幹線のトンネルで保守用の車両同士が衝突した。JRの孫請け会社の社員が、制限を超える速度で運転していた。
「音量が大きすぎるから」と運転台のATSや緊急列車停止(EB)装置のスピーカーに粘着テープが張られたり、紙が詰められたりしていた。その結果、停止装置が作動して列車が止まるまで、小さくなった警報音に気づかなかった運転士もいた。
JR西日本は「安全基本計画」をつくり、「リスクアセスメント」に取り組んでいる。
事故につながりかねない危険を職場ごとにきちんと把握して報告させ、優先順位を決めて対策を講じる。それがリスクアセスメントだ。職場内や社員同士の緊密な連絡が欠かせず、「上意下達」といわれた企業体質を変えるねらいもある。
しかし、一連の出来事から浮かび上がるのは、脱線事故から5年半たち、危機感が再び希薄になっているのではないかという懸念だ。運転士や車掌という安全を担う最前線で問題が続いている点がとりわけ深刻だ。
脱線事故の前に現場のカーブを通ったことがある運転士を対象に、国土交通省の検証チームが最近実施したアンケートで、21%の運転士が制限を超える速度で通過した経験があったと答えた。「運転士が制限速度を大幅に超えて運転することはない」と説明していた会社側と当事者の間に、安全に対する認識のずれがあったといえる。
JR西日本に限らず、人の命を預かる交通機関などでは、運行の現場と会社側との意思疎通をつねに心がける必要がある。それが職場の相互信頼や一体感を醸成し、安全文化を築くことにもつながる。
大事故の教訓を忘れてはならない。軽微な事故やヒヤリハットの事例を軽視せず、JR西日本は社員や関係者全員の安全意識を再点検するべきだ。