ロシアのメドベージェフ大統領が国後島を訪問した。北方四島はロシアに占拠され、日本が返還を求める固有の領土だ。大統領の訪問は両国関係の発展を損なう暴挙であり、厳重に抗議したい。
ロシア最高首脳の北方領土訪問は旧ソ連時代を含めて初めてだ。日本政府は再三、中止を求めてきたが、受け入れられなかった。
北方四島は歴史上、一度も外国の領土となったことがない。
旧ソ連は第二次世界大戦末期、有効だった日ソ中立条約に違反して対日宣戦を布告。一九四五年八月十五日の終戦後も侵攻を続けて北方四島を占拠し、そのまま実効支配している。
日本政府は四島返還を求め、日ロ両政府は四島の帰属問題を解決して平和条約を締結することで合意しているが、ロシア側は返還に応じる姿勢を見せないばかりか、最近では四島支配を正当化しようという動きを強めている。
今年七月には択捉島で大規模軍事演習を実施したほか、日本が降伏文書に調印した九月二日を「大戦終結記念日」に制定して祝賀行事を行った。これは北方四島侵攻を戦争中の行為と位置付け、占拠を正当化するためだ。今回の大統領訪問も、その延長線上にあることは否定できない。
メドベージェフ大統領は欧米寄りのリベラル派とみられており、訪問には二〇一二年の大統領選に向けて強硬姿勢を演出し、権力基盤を固める狙いもあるとされる。
そうした内政上の理由を考慮しても、今回の訪問は、日ロ関係の悪化を決定付けると、ロシア側は受け止めるべきだ。
今月十三、十四両日には、横浜でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれ、菅直人首相は議長を務める。一二年のAPEC開催地はロシア沿海地方のウラジオストクだ。
横浜からウラジオへと続く経済協力発展の流れに、ロシアはなぜ水を差すのか。良好な日ロ関係はアジア・太平洋地域の繁栄の礎であり、それが沿海地方やロシア全体の経済発展につながると、ロシア側は理解すべきだ。
九月の中国漁船衝突事件後に訪中した大統領は、胡錦濤主席と「主権や領土保全にかかわる核心的利益を支持し合う」との共同声明を発表した。北方四島を占拠するロシアと、尖閣諸島の領有権を主張する中国が連携した形だ。
周辺国が対日圧力を強める中、日本も外交の在り方を再点検し、立て直す必要があるだろう。
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