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立ち読みにまつわる最も美しい話――というのをエッセイストの鶴ケ谷真一さんが書いている。19世紀欧州のある街で、貧しい本好きの少年が毎日、書店のウインドーに飾られた一冊の本を眺めていた。読みたいけれどお金がない▼ある日のこと、本のページが1枚めくられていた。翌日も1枚めくられていて、少年は続きを読んだ。そうして毎日めくられていく本を、少年は何カ月もかかって読み終えることができたそうだ(『月光に書を読む』)。おとぎ話のような、書店の主(あるじ)の計らいである▼時は流れて、子どもと本をつなぐ草の根活動を支援する「国際児童図書評議会・朝日国際児童図書普及賞」が、今年で20回目を迎えた。節目の受賞をしたガーナの子供図書館基金の記事を読んだ。コンテナを活用した図書館で、子どもたちが所狭しと気に入った本を広げている▼小さい頃に図書館に通ったという青年は、「人生の基盤を作ってくれた」と振り返っていた。読むものすべてを吸収して膨らむ年頃。地味ながら、人の心に希望をともす尊い活動だと思った▼そして日本では秋の読書週間である。活字離れが言われる中、朝の読書を行っている小中高校が2万6千校あるという。全国の7割を超すそうだ。1日あたりは短いが、欧州の少年のように、何カ月もかけて一冊に食らいつけば素晴らしい▼〈書冊 秋に読む可(べ)く/詩句 秋に捜(さが)す可し〉の一節が宋の詩人楊万里にある。あとに〈永夜〈えいや〉 痛飲に宜(よろ)しく……〉と続く。灯下に一冊か一献か。大人は思案の、秋の夜となる。