十一月一日からNIE(教育に新聞を)週間が始まる。最近は、地域や家庭などでも新聞を学びに生かす動きが広がってきた。記事を読んで語り合う人たち。新聞にはきずなを深める力もある。
今年で十五回目を迎えたNIE全国大会が七月末、熊本市で開かれた。注目されたのが、今回初めて設けられた生涯学習の分科会だった。
仙台市の「地域NIEキャラバン」は二〇〇六年から、新聞を「地域力の再生」に生かす試みを続けている。「NIEで向こう三軒両隣」をテーマに、公民館やお寺などにメンバーが出掛け、新聞に載った話題を基に地域の人たちに話し合ってもらう。
異世代間のコミュニケーションづくりのため、地元の中学生とお年寄りが一緒に語り合う機会も設けている。例えば「新聞から喜怒哀楽を見つけよう」というテーマを設定し、全員が新聞を隅から隅まで熟読する。それぞれ心を動かされた記事を一つ選び、感想を書いて発表する。自分の気持ちをまず方言で話すよう促す仕掛けもあり、お年寄りが子どもに方言を教えるなど和気あいあいとした雰囲気になる。
キャラバン代表の渡辺裕子さんは元教員。学校で親子NIEに取り組んだ経験を地域に広げた。最近では、企業での研修で新聞を活用する企業NIEに取り組む。
なぜ新聞なのか。渡辺さんは「いろんな情報、話題が一覧できるから」と言う。インターネットは自分の興味や関心のある情報を追い掛けるのには適しているが、未知の世界にはいざなってくれない。「新聞はどんな人、どんな話題が出てくるか分からない。偶然の出合いに満ちている。わくわくしませんか」
年齢も考え方も違う地域の人たちが一堂に会して話し合うのは、現代ではたやすいことではない。簡単に読め、はさみで切るだけで資料として使える新聞の素朴さが豊かなコミュニケーションを可能にした。「無縁社会」といわれる今、新聞が地域や家族のきずなを深められるかもしれない。
NIEはこれまで勉強、学習という枠に縛られがちで、新聞社側も利用する側も堅苦しく考えてきた。渡辺さんは「新聞社自体が新聞の魅力を読者に伝えてこなかった。作りっぱなしでは駄目」と指摘する。渡辺さんらの取り組みが教えてくれる。何よりも、新聞を楽しもう。皆で新聞を読んで、大いに語り合いませんか。
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