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10月29日付 編集手帳

 吉野弘さんに『夢焼け』という詩がある。辞書にない言葉を詩人はどうして思いついたか。〈あるとき、どこかの文選工が活字を拾い違え/私の詩の表題「夕焼け」を「夢焼け」と誤植したから…〉◆二つの字形は似ていないが、「夢」は部首「夕」に属する文字で、印刷所の活字収納箱に隣り合って置かれていたことから生じたミスらしい。誤植から生まれたとはいえ、夢に胸を焦がす若い人が夕べの空を仰いでいるかのような、いい言葉である◆きのう、プロ野球・ドラフト会議のテレビ中継を見ながら思い浮かべた選手がいる◆巨人の山口鉄也投手(26)が高校を卒業して単身渡米し、ルーキーリーグに所属したとき、月給は10万円に満たなかった。5人部屋に寝起きし、ハンバーガーで空腹をしのいだという。試合後に長距離移動のバスに揺られて眠り、明ければまた、試合に臨んだ。テレビカメラの放列には無縁であったその人がやがて、日本球界屈指の左腕となる◆プロを夢見て、きょうも黙々と素振りをし、走り込みをする無名の若者が、どこかにいるだろう。一途(いちず)な「夢焼け」に、いつの日か祝福あれ。

2010年10月29日01時21分  読売新聞)
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