菅首相が環太平洋自由貿易圏への参加に意欲を示している。日本は自由化に出遅れ、貿易立国の道も危うい。安い農産物輸入で打撃を受ける農家を支え、新たな自由貿易網に果敢に加わるべきだ。
菅直人首相が「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を検討する」と積極姿勢を見せた。低迷が続く日本経済は、自動車や家電などの購買力を高めた中間所得層が急速に増えているアジア諸国との貿易を拡大して富を増やさなければ、新たに成長する道はない。
二〇〇六年にシンガポールやチリなど四カ国で発効したTPPは昨年、オバマ米大統領が景気回復に向けた輸出倍増計画の一環として米国の参加を表明、これを機に豪州やベトナムなども追随し計九カ国の拡大版交渉が始まった。
日本は韓国、中国などに比べ自由貿易協定(FTA)網の構築が大幅に出遅れた。既に交渉が妥結している韓国と米国、欧州連合(EU)とのFTAが発効すると、自動車や電気製品などの関税が五〜十年以内に相互撤廃され、日本製品は歯が立たなくなる。
もはや各国がしのぎを削る自由貿易のネットワークづくりから目をそらしてはならない。
米国が主導権を握るTPPに日本も加われば、新たな貿易ルールの下で対米貿易も容易になるだろう。首相は来月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で参加を表明すべきだ。
それには、貿易交渉をしばしば妨げてきた農業問題への対応が不可欠だ。韓国は安い農産品輸入に直撃される農家を救済するため、九兆円の巨費を投じる。日本も農家の戸別補償などを土台に収入減を補う政策を進め、貿易と農業との両立を図らねばならない。
それにしても、TPP交渉に対する閣内不一致は嘆かわしい。自由貿易を企画、立案すべき立場にある大畠章宏経済産業相は農業対策などにたじろいだのか、一転して慎重姿勢に転じた。
農家を支えるべき立場にある鹿野道彦農相も農民票の離反を恐れ、腰を引き始めた。APEC会合を目前に、主要閣僚がこの体たらくでは日本経済の再生など到底望めない。
オバマ米大統領は中国の台頭をにらんだアジア外交の柱として来夏のTPP交渉妥結を目指している。中国のレアアース輸出規制は日本の経済外交戦略に再考を迫っている。首相は閣内を統一し、国を開く気概を示さねばならない。
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