HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 29046 Content-Type: text/html ETag: "60ac08-5b14-ab1a5740" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 28 Oct 2010 22:21:07 GMT Date: Thu, 28 Oct 2010 22:21:02 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年10月29日(金)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

高齢者医療―こんな改革はいらない

いたずらに混乱を招くだけで、副作用が大きすぎるような改革は、やめるべきだろう。後期高齢者医療制度を廃止したあとに、どんな新制度をつくるのか。厚生労働省の改革会議で、議論[記事全文]

非正社員賃上げ―公正な分配へ具体化を

パートや派遣社員などの非正社員について、正社員を上回る賃上げを求める。そんな春闘方針を連合が決めたことを、評価したい。時給ベースで正社員を上回る引き上げ額を要求して、格[記事全文]

高齢者医療―こんな改革はいらない

 いたずらに混乱を招くだけで、副作用が大きすぎるような改革は、やめるべきだろう。

 後期高齢者医療制度を廃止したあとに、どんな新制度をつくるのか。厚生労働省の改革会議で、議論が進んできた。7月に原案が示され、先日は新制度で保険料などの負担がどう変わるかについての試算も出た。

 だが、新制度案はきわめて複雑で、誰の負担にどう影響するのか、理解することすら容易ではない。それでいて、本質的なところで中身は現行制度と変わりない。小手先の変更に終始した印象はぬぐえない。

 75歳以上のお年寄りの医療費を切り離して別勘定にし、保険料、現役世代からの支援金、公費(税金)の三つで賄う。「うば捨て山」と批判された構造自体は温存されるのだ。

 ただし、会社に勤めていたり、息子や娘らに扶養されていたりする人は健康保険組合などへ戻る。それ以外は国民健康保険に加入する。

 これで民主党が政権公約に掲げた「今の制度を廃止する」との約束を守ったと説明はできても、看板を変える以上の意味は見いだせない。

 その一方、各保険制度ごとに「別勘定」ができるため、お金のやり繰りは格段に複雑化する。制度のわかりにくさは、それ自体が不信を招く要因だ。高齢者と、それを支援している現役世代の双方が納得できないような制度になりかねない。

 厚労省は、他にいくつかの制度変更も提案している。

 高齢者の保険料率の伸びを今よりも抑える。高齢者への支援金を現役に割り当てる際、中小企業の社員が中心の協会けんぽでは負担を軽く、高収入の社員が多い健保組合では重くする。70歳から74歳までの窓口負担を1割から2割に引き上げる、などだ。

 また、長期的な課題として、国民健康保険の運営全体を市町村から都道府県単位にする方針も打ち出した。

 こうした変更は、現行制度下でも実施できる。余計な制度いじりと切り離し、実現可能性を探ればよい。

 政府は来年の通常国会に法案を提出するというが、こんな案は出すべきでないし、通るとも思えない。

 きのう、政府・与党社会保障改革検討本部が官邸に設置された。医療、介護、年金などを含めた改革の全体像について、財源の確保と一体的に議論するという。高齢者医療の混迷も、むしろ増税の必要について議論を深める契機と考えたい。

 新規の財源という要素が入れば、「年齢で差別し、負担を押し付け合う」現状を脱する道も見えてくる。その前に制度を変えても、また変更が必要になることは目に見えている。二度手間は避けるのが当たり前だ。

検索フォーム

非正社員賃上げ―公正な分配へ具体化を

 パートや派遣社員などの非正社員について、正社員を上回る賃上げを求める。そんな春闘方針を連合が決めたことを、評価したい。

 時給ベースで正社員を上回る引き上げ額を要求して、格差を縮めていくという。傘下の組織の責任者らが11月1日から具体策を話し合う。

 組合員の9割が正社員である連合としては画期的な方針転換だ。背中を押したのは、非正社員の急増による働き手全体の賃金低下だった。

 1995年からの15年に正社員は約400万人減った。非正社員は約700万人増え、3人に1人を超えた。労組の組織率は2割を切り、企業との交渉力は低下。2002年から07年まで「戦後最長の景気拡大」があっても、働き手の1人あたり現金給与総額は97年のピークから12%落ち込んだ。それが消費の停滞も招いた。

 加えて、08年秋の経済危機で大量の非正社員が契約を打ち切られ、「非正社員を犠牲にして正社員が生き残る構図」を目の当たりにしたことも、正社員の組合員たちに衝撃を与えた、と執行部はいう。

 この状況に歯止めをかけるため、非正社員重視を掲げ、中長期的な格差是正への決意を示した。だが、実現の道筋は見えていない。

 円高ショックの中で企業業績の先行き不安は強く、グローバル化による企業の海外脱出への懸念もなお続く。今回の要求方針は、賃上げ分の中の非正社員への配分増で、正社員分を減らすわけではないが、正社員から不満が噴き出さないとも限らない。

 そんな中で必要なことは、格差が社会や企業に及ぼす影響を洗い出し、各企業の労使が正面から向き合って、公正な分配へ向けた成功例や工夫を積み上げていくことではないか。

 日本では昨年、労組の求めに応じて広島電鉄が賃金の原資を増やして全契約社員の正社員化に踏み切った。米国では90年代後半、運輸業界の労組が大手貨物会社UPSに対し長期のストを展開。フルタイム労働者の半分程度の時給だったパート労働者の格差是正のため、フルタイム3%、パート7%の賃上げを認めさせた。

 いずれも、きめ細かい情報提供で労組員の分裂を防ぎ、働き手の連帯感の減退やサービスの質の低下など、格差がもたらす弊害の深刻さについて企業に理解を深めさせた成果だった。

 こうした動きを制度から後押しするため、同一価値労働同一賃金など公正な労働条件づくりを急ぐことも重要だ。労働者派遣法改正案からは外れたが、派遣社員の労使交渉を進めるための派遣先の責任強化も課題である。

 正規でも非正規でも、まじめに働けば報われる仕組みで、経済の足腰を強くすることが求められている。

検索フォーム

PR情報