HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17382 Content-Type: text/html ETag: "515968-43e6-b1a96240" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 25 Oct 2010 23:21:42 GMT Date: Mon, 25 Oct 2010 23:21:37 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
膵臓(すいぞう)移植で知られる藤田保健衛生大病院の杉谷篤(すぎたに・あつし)教授は、腕を磨いた米国で、脳死の子から臓器を摘出したことがある。愛児と同じ5歳だった。執刀後、わが子に同じことができるか自問したという。人の生死にかかわる瞬間は、訓練を積んだ玄人にも厳粛だ▼平和の国に生きる我らである。医者か法律家でもなければ、また、重い犯罪に手を染めぬ限り、人様の命をこの手に預かることはない。例外がある。裁判員裁判で初めての死刑が求刑された▼被告の男(42)は、被害者(享年21)目当てに「耳かきサービス」の店に通い詰めた。彼女の営業熱心を好意と勘違いしたらしい。しつこさを店にとがめられ、慕情は憎しみに転じ、探し当てた被害者宅で祖母もろとも手にかけてしまった▼身勝手きわまるストーカー殺人に、遺族は極刑を望んでいる。反省の浅深、犯行時の精神状態などの情状を、女性4人、男性2人の裁判員がどう酌むかが、判決の分かれ目となる▼一審では、年に平均10件ほどの死刑判決があるという。従って、検察が裁判員に重い球を投げてくるのは時間の問題だった。複数を殺(あや)めた事件の求刑がいくつか控えている。くじ引きで選ばれ、他人の生死を委ねられる国民は増えていく▼「死刑判決で自分が変わるかもしれなかった」。今回、選に漏れた女性は不安を語った。判決まで1週間、裁判員は重い球を抱えて自問を重ねよう。被害者の父ならば、被告人の母だったらと悩み抜くはずだ。私たち素人の代表である6人と一緒に、極刑の重さに向き合いたい。