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経済成長を促し、雇用を増やすために国を開く。その決意を貫き、党内を説得できるか。問われているのは、菅直人首相の指導力である。首相は太平洋を取り巻く自由貿易地域づくりをめ[記事全文]
その「言葉の軽さ」はつとに指摘されてきたところだが、みずからの出処進退にかかわる発言まで、かくもあっさり撤回するとは驚くほかない。次の総選挙に立候補せず、政界を引退する[記事全文]
経済成長を促し、雇用を増やすために国を開く。その決意を貫き、党内を説得できるか。問われているのは、菅直人首相の指導力である。
首相は太平洋を取り巻く自由貿易地域づくりをめざす「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への参加を検討すると表明した。ところが、足元から異論が噴き出している。農業票の離反を恐れる与党議員110人が「大きな懸念」を決議し、政局混迷につながりかねない雲行きだ。
参院選で首相の「消費税10%」発言に党内から批判の声が上がったことを思い出させる。今回も後ずさりするようでは、政権の信認は揺らぐ。
TPPは米国や豪州、チリ、マレーシアなど9カ国が交渉に参加している。輸出倍増を狙うオバマ米大統領は来秋の妥結をめざす。
カナダや韓国の参加も予想され、これが環太平洋版の広域な自由貿易協定(FTA)に発展する可能性が大きい。新興国の成長力を取り込んで経済再生を図りたい日本としては当然、加わる必要がある。
内閣府は、TPPに参加すれば国内総生産(GDP)が3兆円押し上げられると試算した。その数字の妥当性はともかく、FTAが貿易拡大と経済成長に役立つという効用は過去の例からも明らかだといえよう。
5年前のFTA締結で、日本からメキシコへの輸送機械輸出は15億ドル増えた。一方、日本と豪州とのFTA締結が遅れているため、自動車メーカーが豪州とFTAを結ぶタイへ生産拠点を移す動きも出た。米国や欧州連合(EU)とFTAをまとめた韓国の積極策を日本も見習う必要がある。
TPP参加で農産物の輸入が増え、国内農業が著しい打撃を受けないかという心配が関係者の間にあることも理解できる。いまはコメの700%を超す高率関税をはじめ、手厚い保護策に守られているからだ。
だが、こうした政策では農業を守れない。農業生産額も農家所得も減少の一途で、就業者の平均年齢は65歳だ。担い手不足は深刻である。
安全で高品質な日本の農産物は、戸別所得補償など適切な政策を活用すれば、競争力を発揮できる。新興国の中間層や富裕層の拡大に伴う輸出市場の開拓も期待できる。高齢農家の農地を意欲ある農家に集め、自由化に負けない強い農業を育てる。そのためなら、農業予算がある程度膨らんでも、国民の理解は得られるのではないか。
いまから交渉に加わって、主要な農産物を関税撤廃の例外にしたり、自由化までの経過期間を長くしたりするよう主張する手もある。菅首相は横浜市で来月開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の席上、TPP交渉に乗り出す考えを表明すべきだ。
その「言葉の軽さ」はつとに指摘されてきたところだが、みずからの出処進退にかかわる発言まで、かくもあっさり撤回するとは驚くほかない。
次の総選挙に立候補せず、政界を引退すると表明していた鳩山由紀夫前首相が、衆院議員を続ける意向を明らかにした。「党の状況が思わしくない」ので、まだ自分に果たしうる役割がある、というのがその理由だ。
あれれ、と思う。そもそも、民主党が「思わしくない」状況を招いたのには、小沢一郎元幹事長とともに鳩山氏自身も重い責任があるのではないか。
「母からの子ども手当」と揶揄(やゆ)された政治とカネの問題、そして普天間問題をはじめとする稚拙な政権運営。わずか8カ月で政権を放り出し、政権交代への国民の期待を裏切ったことを、お忘れではあるまい。
鳩山氏には議員の資格がない、というのではない。
ただ、鳩山氏は政界引退を表明するにあたり、「総理たる者、その影響力を、その後、行使しすぎてはいけない」と語っていた。
自民党政権時代、首相を退いた政治家が陰に陽に政界に影響力を及ぼすことは珍しくなかった。それだけに、この鳩山氏の言葉には、首相経験者の新たな身の処し方を示そうという自負と潔さが感じられたものだった。
鳩山氏は政権交代前にも、自民党の森喜朗、安倍晋三両元首相を念頭に、「総理まで極めた人」のふるまいが「政治の混乱を招いている」と批判し、自らはその道は採らないと述べていた。それは、確固たる信念ではなかったのだろうか。
菅直人首相とともに民主党を立ち上げ、政治資金の面倒をみてきた鳩山氏には、今も自分が党のオーナーだという意識があるのかもしれないが、民主党は鳩山氏の私党ではない。
世代交代を進め、二大政党の一翼としてさらにたくましく成長させるには、鳩山氏も小沢氏も後進によって乗り越えられるべき先達である。
旧来の政治家像と異なる理念重視型の鳩山氏には、政界引退後も氏らしい役割の果たし方があったはずだ。
持論の東アジア共同体を具体化させるべく、シンクタンクをつくって構想を練るもよし。「新しい公共」という概念を深め、NPO(非営利組織)活動などの後押しに取り組むもよし。
民間人の立場から党派を超えて、日本の政治や社会に貢献する道である。
米国では正副大統領が退任後、民間で活躍している例は少なくない。カーター元大統領は北朝鮮などとの外交で、ゴア元副大統領は地球環境問題で、大きな足跡を残している。
首相経験者の新たな役割モデルを打ち立てることも期待できただけに、前言撤回は残念でならない。