遺伝子組み換え(GM)作物が他国の環境に被害を与えたとき、誰が原状回復するか。名古屋のカルタヘナ議定書締約国会議(MOP5)でルールが定まった。次は安全性にも踏み込んだ議論が必要だ。
カルタヘナ議定書で輸出入の規制を受ける、人工的に改造された生物(LMO)とは、一般にGM作物と、異なった生物同士の細胞を合わせて作る細胞融合生物のことをいう。
GM作物は、遺伝子操作で新たな性質を与えられた農作物だ。品目は主に大豆、トウモロコシ、綿、ナタネ。特定の農薬をかけても枯れない、作物自体が殺虫作用を持つなどの特性を与えられ、大量生産がしやすくなるため、米国から世界二十五カ国に広がった。
生物多様性条約は、バイオテクノロジーで改変された生物が環境に与える悪影響を、人の健康への危険も配慮して規制、管理、制御の手段を講じるよう求めている。議定書はこの条約に基づいて、その輸出入を規制する国際ルール、GM作物の潜在的な危険をも考慮して、予防原則を当てはめた。
日本ではGM食品への不安が強く、食品は流通していない。とはいえ、飼料用トウモロコシを大量に輸入するなど、世界最大のGM作物輸入国ともいわれている。輸送中にこぼれ落ちたナタネが道端の植物と自然交雑する例も、国内でしばしば報告されている。
世界的な食料不足の時代はすでに始まっていて、穀物増産の切り札としてGM作物への期待は強い。これまで批判的だった欧州でも、規制緩和の動きがある。
GM被害の責任を明らかにした「名古屋・クアラルンプール補足議定書」は、南北歩み寄りの実績を示す歴史的な成果に違いない。生物資源から得られる利益配分をめぐって議論が進行中の生物多様性条約締約国会議(COP10)にも、良い影響を及ぼすだろう。だが補足議定書の適用も生態系被害に限られ、農作物や人体への影響、LMOを原料にした食品被害は対象外だ。所管が違うといわれても、一般には分かりにくい。
GM食品の安全評価は、ますます重要になるはずだ。多くの人の命をつなぐ主要穀物の特許を、一部の企業が独占する危うさも含め、今後は食物としての安全評価や監視体制へさらに踏み込んだ国際的な議論が必要になるだろう。名古屋の成果を足がかりに、二年後のMOP6にも向けて、さらに議論を深めるべきだ。
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