HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sat, 23 Oct 2010 21:11:17 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:築地市場移転 論議幕引きは禍根残す:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

築地市場移転 論議幕引きは禍根残す

2010年10月23日

 世界的にも名高い東京都の築地市場。石原慎太郎知事は都議会内の慎重論を振り切って移転決行を表明した。日本の食の歴史と文化を継承してきた拠点だ。強引な論議の幕引きは後世に禍根を残す。

 午前五時、鐘の音を合図に威勢のいい掛け声が響いた。東京都中央卸売市場築地市場(中央区)で始まったマグロの競り。踏み台に立って大声を張り上げる競り人と、指を曲げ伸ばしする符丁で買値を争う周囲の仲卸業者たち。その光景を大勢の外国人観光客が夢中になってカメラに収めていた。

 「海の宝石の取引だ。わくわくするよ」。米国人ジェームズ・アーウィンさん(76)は十五年ぶりの見学を楽しんだ。「築地から移るのか」と驚き、市場の活気が損なわれないかと心配した。

 「移転はだめ」と嘆いたのはベルギー人ステファン・ロブレッツさん(43)。「ここには本物がある。コンピューター相手の仕事にはない人間らしさがある。その職人の知恵や技が失われる」と。

 昔ながらの魚河岸の風情は、日本の観光名所の上位に挙げられるほど海外でも有名だ。近隣には場外市場と呼ばれる生鮮食料品などの老舗がいくつも軒を連ね、にぎわっている。築地市場の移転に落胆する内外の声は多いだろう。

 確かに、築地市場は開業七十五年を迎え、手狭で老朽化が著しい。都は豊洲地区(江東区)に移して新市場を開く計画を進めてきた。だが、移転予定先のガス工場跡地の土壌や地下水の汚染が判明し、現在地で建て替えられないか都議会で検討してきたわけだ。

 都議会で出された建て替え四案にも課題は少なくない。現在地の土壌汚染が発覚したり、埋蔵文化財が出土したりすれば工期が長引き、経費がかさむだろう。

 長期に及ぶ開業スケジュールを石原知事は「致命的欠陥」と一蹴(いっしゅう)したが、引き続き話し合うと決めた都議会の意思は軽んじるべきではない。移転計画の空回りを招いた要因は、汚染対策などをめぐる都自身の不誠実な姿勢にあったのは間違いないのだから。

 食の安全安心はもとより市場再建が注目されるのは、歴史と伝統が育(はぐく)んできた“築地文化”の行く末が案じられるからだ。場外市場と築地本願寺、大名庭園の浜離宮、歌舞伎座を擁する銀座など地域一帯が混然となって江戸前の無形財産をつくってきた。外国人をも唸(うな)らせる固有財産を生かすことにこそ日本の活路が見えてくる。

 

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