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歌い継ぎたい童謡は「赤とんぼ」、次が「ちいさい秋みつけた」だという。本紙「be」の読者調査である。この時節の歌は心にしみるようだ。ついでに秋の味覚に序列をつけるのは無粋だが、阿波野青畝(せいほ)の句に〈松茸(まつたけ)は皇帝栗は近衛(このえ)兵〉がある。もらい物のカゴを詠んだものか▼今年の皇帝様、平年のほぼ半値で店頭に鎮座している。猛暑から秋涼に転じる頃合いにお湿りがあり、豊作の条件が整ったらしい。産地の岩手では「シメジのような群生」も見られたそうだから、もはや近衛兵だ▼天の恵みは公平で、旬の味覚に紛れて「旬の毒」も豊作である。売ったり食べたりした話が各地から聞こえてくる。惑わせたキノコはツキヨタケ、クサウラベニタケ、ニガクリタケと、名まで怪しい▼『都会のキノコ』(八坂書房)の著者大舘一夫さんは、虫が平気で食べる毒キノコを、人間への「憎悪のメッセージ」に見立てる。虫や動物は胞子や菌糸を散布してくれるのに、人は食べるばかりで森を壊すこともある。キノコ界は怒っていると▼新宿御苑を歩いたら、落ち葉の中に淡黄のマシュマロが寄り添っていた。枝でつつくと、何のメッセージかプッと真上に胞子を噴き出す。愛敬者はホコリタケ、ちいさい秋である▼サトウハチローが〈お部屋は北向き/くもりのガラス/うつろな目の色/とかしたミルク……〉と詠(うた)った冷涼。きょうは二十四節気の霜降(そうこう)にあたる。北からは初霜や初氷の便りが届いている。季節の深まりを五感に覚える候、実りを残して、秋が背中を見せ始めた。