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10月21日付 編集手帳

 〈長岡輝子と()う人はどんな人だか分らないが〉人間の洞察も満足に出来ない、偽善的な考え方をする人だろう…。菊池寛は月刊誌『文芸春秋』のコラムに書いた。79年前のことである◆長岡さんは当時23歳、留学先のパリから帰国したばかりである。同じ雑誌に求められて随筆を寄稿し、留学時代に接した作家久米正雄のある行状を批判したことから菊池の不興を買った◆菊池の文章は親友の久米を擁護したものだが、その女性がのちに女優として、また女性演出家の草分けとして、「菊池寛賞」をもらうとは想像もしなかっただろう◆菊池との一件もそうだが、通っていた学校では与謝野晶子の講義を聴き、パリでは藤田嗣治のアトリエを訪問し――と、長岡さんの回想には長寿のご褒美とでもいうべき挿話が綺羅(きら)星のごとくちりばめられている。舞台やテレビでの存在感ある演技は、豊饒(ほうじょう)な人生経験から搾られた一滴一滴であったに違いない。長岡さんが102歳で亡くなった◆「その節は、どうも…」。秋空の高み、あの穏やかな中にも(りん)とした張りのある声で、因縁浅からぬ文豪に挨拶(あいさつ)している姿が目に浮かぶ。

2010年10月21日01時33分  読売新聞)
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