夜、東京湾の上空を見上げると、星のような光がゆっくりと動いているのが見える。二、三分の間隔で、遠くの闇の中から新しい光が次々と現れてくる▼幻想的な光の連なりは、羽田空港への着陸を目指す飛行機の着陸灯だ。一日約九百三十便が離着陸する世界でも有数の過密した空港で、きょうから四本目のD滑走路の運用が始まる。発着枠は、現在の一・五倍まで順次拡大されるという▼月末からは国際定期便も就航。豊富な国内線網を活用した外国人観光客誘致への期待が膨らむ。新国際線旅客ターミナルビルの店舗街では江戸時代の街並みを再現し、外国人客に「和」をアピールする構えだ▼お祝いムードが盛り上がる中で気がかりなのは、格段に複雑化する管制業務のことだ。井桁(いげた)状に並ぶ四本の滑走路を同時に使用する南からの風の時は、離陸機と着陸機の経路が交差するポイントが生まれるという▼国際線ターミナルから離陸滑走路に向かう航空機が、着陸滑走路を横断する場面もしばしば見られるようになる。本紙の取材に、国土交通省の担当者は「車の合間をぬって東京の繁華街の道路を渡るようなものですよ」と語っている▼一瞬の判断ミスが大事故につながる。パイロットや管制官の重圧は一層増すことになるだろう。「国際ハブ(拠点)」や「観光振興」などと浮かれても、安全こそが扇の要である。