民主党政権下での「ねじれ国会」。序盤を終えて補正予算案の扱いが焦点になります。で、注目します。国会の「かたち」が変わり始めていることに。
「熟議」がこれほど叫ばれた国会は初めてでしょう。文字通り議論を尽くす、じっくり相談する、といった意味です。
使用頻度が高いのは菅直人首相です。所信表明で述べました。
「私は今回の国会が具体的な政策をつくり上げる『政策の国会』となるよう願っています。そのために議論を深める『熟議の国会』にしていくよう努めます」
続く衆院予算委員会でも「熟議の中から合意できるよう、野党も努力を」などと訴えていました。
◆補正で野党誘う菅政権
衆院は与党が圧倒多数、逆に参院で与党は半数に満たず野党が多数を占めます。その結果、国会の二院の意思が異なってしまう。この状況を政界やメディアは「ねじれ」と表現しています。
政権を担う側からすれば、命運のかかる由々しき事態です。
政策の裏付けとなる予算を組んでも、その予算を執行するのに欠かせない法案に参院の多数野党がノーなら、にっちもさっちもいかなくなるのですから。
とはいえ、このねじれ状況、今さら珍しくもありません。自民党政権当時にもあったことですし、むしろこれが常態と考えた方がいいくらいです。
自民から民主への政権交代、続く民主の参院選大敗で、良くも悪くも二大政党は「ねじれ体験」を共有することになりました。
互いに手の内は知れています。政権の枠組みをいじる連立工作か政策ごとの部分連合か。どっちも簡単なことではありません。
で、菅政権は経済対策で野党を誘います。自民や公明の主張を丸のみしたともされる、五兆円規模の本年度補正予算案です。
◆談合も難しいご時世に
補正予算案が形になって審議の俎上(そじょう)に載るのは月末から十一月初旬。まだ先なのに思惑含みの発言が政権サイドから続々でした。
民主党の岡田克也幹事長。「国会で議論して、なるほどということがあれば(予算案を)修正するのにやぶさかでない」
閣僚では経済財政担当相の海江田万里氏らが「(補正に盛る)地域活性化交付金は公明党が力を入れていた」と。露骨です。
連携相手に菅政権が見据えるのは公明党。そんな絵柄が出来上がって、いくつかのメディアは「公明、補正予算案に賛成へ」と伝えたものでした。
総選挙では自公政権継続を訴えた党だから、政権すり寄りに支持層の反発も少なくないらしい。
ですが、国民生活に密接な経済対策に党として異論を挟むのはやはり難しいものなのです。
そこは自民も同じこと。補正への対応を決めかねて、公明など他党や今後の政権の出方をうかがう慎重な構えをとっています。
興味深いのは、悪く言えば密室談合みたいな与野党間の接触が聞こえてこないことです。
あるにはあるのです。今月はじめ、民主の輿石東、自民の中曽根弘文両参院議員会長が接触しています。でも、すぐ表ざたに。
密会とか密室談合とか、そのこと自体が、なにかと難しいご時世になっているのでしょう。
昔、といっても十年ちょっと前の話ですが、ねじれ状況に直面していた小渕政権で、官房長官の野中広務氏は自自公(自民、自由、公明)連立を実現します。
「政局安定」を大義名分に、とりわけ自公の提携には幹部間の密会を重ね、重要法案処理で確かな関係を築く、神経をすり減らす日々だったそうです。
いま菅内閣や民主党に、あの野中氏のような役を演ずる人物は見当たりません。
首相の側から公明へ秋波が送られているのは確かですけれど、リアルな連携工作を伴っているかとなると、かぎりなく怪しい。
そこらが民主政権の未熟さを象徴しているのだと、けなす人もいますが、どうでしょう。
民主の政権が国会対応で見せるドライさは、自民の新執行部の顔触れを見ても似たり寄ったり。
つまりこれは、政界の代替わりがもたらした必然の結果と考えてよいのではないでしょうか。
そして国会。政党の思惑を映します。閣議で決めた法案も修正自在、なにごとも「熟議」で決着するとなれば、国会は政策を事実上最終決定する場になります。
◆言葉通りの熟議をぜひ
野党協力をどう得るか、菅政権は年明け国会を正念場とします。だからといって、もっかの国会を実験台にされても困ります。
国権の最高機関がかたちを変える。ならば主権者国民をなおざりにしない、言葉通りの「熟議の国会」をと、注文しておきます。
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