動く度にチリーン、チリーンと音が鳴るベルを腰に結わえ、思いついたようにピーッとホイッスルを吹く▼かと思えば、防犯ベルのような装置でけたたましい電子音を発したり…。そんな人が街中にいれば通報されかねないが、山深い渓流に出掛ける釣り人の話である。これらはすべて自衛手段。お察しの通り、クマ避(よ)けの装備だ▼とにかく大きな音をたて、「ここに人間がいるよ」と、あのおっかない連中に教える仕掛け。基本的に彼らは人を恐れるから、そうと知れば向こうから避けてくれるはず、という前提に立っている▼だが、それを揺るがすようなケースも最近、少なくない。先日も福井県で介護施設の建物に侵入してきたクマが職員を襲うなど、各地で人里への出没が目立つ。日本熊森協会(兵庫県西宮市)によれば、全国の捕殺数も例年を大幅に上回っている▼ブナやナラなどの木の実が少なくえさ不足に陥っているためらしい。人を避けたくても空腹には勝てず、里へ向かえば、捕獲や射殺が待つのだから、クマにとっても苦境だ。そして、その山の実りの不作の原因はといえば、やはり、あの猛暑▼ここにきての野菜価格の高騰もしかり。来春は大量と予想される花粉の飛散量もしかり。あの記録的猛暑は、夏に、熱中症や熱帯夜で苦しめただけでは飽き足らず、いつまでも私たちの暮らしにたたってくる。