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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
鹿や猪(いのしし)は秋なのに、熊は冬の季語だという。猟期と冬ごもりの印象だろうが、猟師以外が出合うとすれば、やはり餌を求めてうろつく秋である。ぬっと現れ、のそりと消える。出没の語がこれほど似合う動物もない▼今年は里での悪さが目立つ。福井のデイケア施設で看護師にかみつき、山形の中学校では職員に体当たり。いずれも屋内に入り込み、のそりと消える前にズドンとやられた。人の被害も捕獲数も、約5千頭が捕まった2006年以来の当たり年らしい▼「熊がそれだけ増えている」と語るのは、今日の状況を見抜いたような写真集『となりのツキノワグマ』(新樹社)を出した宮崎学さん(61)だ。地元中央アルプスの獣道などに自動撮影のカメラを仕掛け、かれこれ35年、動物を狙ってきた▼82年からの3年間で1頭しか写らなかった熊が、05年秋には1カ月で10頭も写ったそうだ。いまだに「大猟」が続く。「人知れず、うんと増えているというのが定点観測の実感です。山で増えれば、里に下りる数も増す」▼獣と人の緩衝地帯だった里山や田畑は過疎化で荒れ、熊は隣まで来た。宮崎さんは懐疑的だが、「人里徘徊(はいかい)」の背景にドングリの不作を挙げる専門家もいる。〈山痩(や)せて熊出る里の昼暗し〉塩田籔柑子(やぶこうじ)▼国連地球生きもの会議が名古屋で開かれている。ツキノワグマもヒグマも、わが森の生態系を引き締める立役者だ。本来は小心で、好きで姿をさらしているわけではない。彼らを「害獣の王」にしないよう、生息数をとことん調べ、共存の道を探りたい。