HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 14 Oct 2010 21:13:20 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:チリ鉱山救出 『希望』が奇跡を支えた:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

チリ鉱山救出 『希望』が奇跡を支えた

2010年10月14日

 地下七百メートルに二カ月以上閉じ込められる状況とはいかなるものか。都会生活に慣れきった多くの現代人の想像を絶する。絶望を歓喜に変えたチリの鉱山救出劇には、学ぶべきものが多々あろう。

 避難所は、五十平方メートルほどの空間だったという。内部の気温は常時三〇度を超え、湿度は80%以上、一時90%以上とも伝えられた。真夏日状態で密閉された孤絶感を想像すればいいのだろうか。

 衛星テレビを通じて次々伝えられた救出される作業員たちの表情は、しかし、周囲の興奮状態とは裏腹に冷静そのものに映った。孤独と生存の危機に晒(さら)されながら、集団生活のなかで自らに課した秩序を守り、努めて日常に近い過ごし方を貫いた知恵の深さを思う。

 約七十日間にわたった地下生活での絶望は、十七日後に地上との連絡がついた時点から希望に転じた。帰還を待つ家族らの村はいつしか「希望」と呼ばれ、地上で生まれた作業員の新生児も「希望」と命名された。無事救出への国民の祈りを物語って余りある。

 家族、国民、そして国際社会の協力なくしてあり得なかった救出劇だが、最大の要因は、閉じ込められた三十三人の鉱山労働者としての気概と職業意識だったのではないか。世界一の埋蔵量と生産量を誇る銅産業は、チリの中核産業だ。銅産業はチリの歴史に深く刻まれている。

 一九七〇年代のアジェンデ社会主義政権とその転覆の経緯はまだ記憶に新しい。アジェンデ政権の実施した鉱山国有化は、大企業、軍部の反発を呼び、七四年のピノチェト氏による政権奪取につながった。

 現ピニェラ大統領は、ピノチェト政権崩壊後二十年以上にわたった中道左派政権に代わって、この春誕生したばかりの中道右派政権だ。ハーバード大学出身のピニェラ氏は、親米路線を模索しているとされる。今回の救出作業に当たって、米航空宇宙局(NASA)が迅速な協力提供を行ったのも、その反映だろう。

 反米色の強い政権が多い中南米だが、これを機に関係改善の糸口が生じることも期待したい。 

 全員救出をもって作業自体は終了する。しかし、事故原因、管理責任の究明、また補償をめぐる交渉など、地上での厳しい日常が始まるのはこれからだ。

 救出活動はなお継続している。まずは、全員の無事救出を、家族とともに祈りたい。

 

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