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10月14日付 編集手帳

 妻が出産するとき、夫も床について子を産む苦しみを真似(まね)る。文化人類学の用語で、「擬娩(ぎべん)」という。苦しみを共にすることで、妻の安産を祈る風習だろう◆地底に閉じこめられた33人の苦しみを、世界で多くの人が我が身の苦しみとして受け止め、祈ったはずである。史上最大規模の擬娩と言えるかも知れない◆チリ北部の鉱山で、落盤事故によって地下坑道に取り残された作業員の救出作業がつづく。命の通り道である“産道”ならぬ立て坑から一人、また一人と生還している。地下620メートル、これ以上の難産はあるまい◆5人、10人が死亡したテロのニュースが「またか」の一語で聞き流される時代である。命とは本来、どのように遇されるべきか、遇すべきか――ともすれば死というものに神経の()()しがちな現代人に、今回の救出劇は何かを語りかけるに違いない◆江戸川柳に、〈初産(ういざん)に手足のゆびを数へて()〉とある。生還した人々も生まれたての赤ちゃんのように、再会した家族から指を、目を、耳を、触られているだろう。最後の一人がその時を迎えるまで、もうひと踏ん張り、擬娩で(うな)るとする。

2010年10月14日01時38分  読売新聞)
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