HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17348 Content-Type: text/html ETag: "1ba3bb-43c4-d09a8040" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 14 Oct 2010 00:21:36 GMT Date: Thu, 14 Oct 2010 00:21:31 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年10月14日(木)付

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 北の民イヌイットは、雪原のまぶしさから目を守る雪めがねを考え出した。セイウチの牙や木片に細い切れ目を入れた、手作りのゴーグルだ。光を遮る発明品はサングラスの原点とされる▼地底から救出されるチリの鉱員たちは、夜も朝もそろいの黒めがねだった。暗さに順応した網膜を保護するだけでなく、それは感情の爆発や乱反射を防ぐ道具に見えた。すでに万感募る瞳である。歓喜の明度が九割減でも不足はなかろう▼一人目の救出中に日付が変わった。約15分とはいえ、身を硬くしての孤独には足かけ二日の表現がふさわしい。現地の例えは「地中からの出産」。苦から喜へと英雄たちが産道を抜け、70日も頭上にあった大地を踏みつけた▼チリにすれば波乱の建国200周年だ。まず大地震に襲われ、文字通り余震の中でピニェラ大統領の就任式、そして「奇跡の33人」である。基幹産業での不幸と幸運は、救出劇の先頭に立った大統領の人気を押し上げた▼鉱員にはギリシャ企業が慰安旅行を申し出たそうだ。映画化も決まり、会見や手記の依頼もある。体験に値がつくことで、彼らは地底からしばし解放されよう。いや、もうこりごりか。坑内労働の安全は、一編のハッピーエンドで守れるものではない▼漢字は、かの国に智利(チリ)をあてる。国を挙げての智は鉱員に大きな利を贈ったし、33人の智が国に与えた一体感という利はそれ以上だろう。地の上下で共鳴した叫びを漢訳すれば「智智智! 利利利!」。この二つで人も国も強くなると、地球の反対側から学んだ。

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