鳥のウソは口笛のような悲しげな声でさえずる時、左右の脚を交互に持ち上げる。琴を弾く手の動きに似ているため「弾琴鳥」の異名がある。ジャーナリストの菊池寛はかつて「空で琴を弾くので、そらごとをウソと云(い)うのだと物の本にあった。シャレのようでもあるが、案外本当の語源かも知れない」(『話の屑籠(くずかご)』)と書いている▼空で琴を弾くというのはなんとも優美な表現だが、絶大な捜査権限を持つ者が空ごとを言い出したら、狙われた人物はみな刑務所行きになってしまう▼大阪地検特捜部の押収資料改ざん事件で、最高検はきょう、証拠品の文書データを書き換えたとして証拠隠滅罪で主任検事を起訴する。検事は懲戒免職になる▼検事は「データをわざと書き換えた。そのことを上司にも報告した」と容疑を認めているようだが、逮捕された前特捜部長らは「故意に改ざんしたと報告は受けていない。過失だと思っていた」と全面的に否認している▼両者の主張がどうしてここまで食い違うのだろうか。どちらかが空ごとを言っているのか。組織防衛のため、最高検が主任検事や他の検事の供述を誘導するようなことはまさかしないと信じるが▼特捜部長と主任検事の“法廷対決”が実現する可能性もある。検察には最悪のシナリオだ。検事の野心が生んだうそが、検察の組織全体を根本から揺るがしている。