今年のノーベル平和賞に共産党の一党独裁を批判して獄につながれた評論家の劉暁波氏(54)が選ばれた。大国中国が人権や言論の自由をおろそかにしていることへの国際社会の懸念が示された。
劉氏は二〇〇八年十二月、言論の自由や人権の確立、民主的な選挙を通じた三権分立の実現を訴えた文書「〇八憲章」をインターネットに発表した。憲章はネット上で次々に転載され、賛同者を集め一万人以上が署名したという。
中国当局は発表直前に劉氏の身柄を拘束して、そのまま起訴し今年二月、国家政権転覆扇動罪で懲役十一年の判決が確定した。
実行行為を伴わず、インターネットの言論だけを理由に重刑が科せられたのは、中国でも改革・開放が始まって以来、例がない。
気鋭の評論家として知られていた劉氏は、米国で研究中の一九八九年、天安門広場を中心に起きた民主化運動に参加するため帰国した。六月初めには戒厳令に反対する一方、学生に撤退を呼び掛けハンストを始めたが六月四日の軍による運動鎮圧後、逮捕された。一年半の獄中生活後も、北京にとどまり執筆活動を続けてきた。
日本で翻訳、出版された近著「天安門事件から『08憲章』へ」(藤原書店)で劉氏は民間の権利意識の高まりや自由への希求に変革への展望を見いだしている。
ノーベル賞委員会は劉氏の受賞理由を「中国での基本的人権の確立のため長期にわたる非暴力の闘いを行った」としている。
中国は今年中に経済規模が日本を追い越し世界第二位の経済大国に躍進し、二十一年連続で国防費を二けた成長させて米国に次ぐ軍事大国になろうとしている。
しかし、人権や自由、民主主義など人類が歴史的に確立してきた普遍的思想を「西側の価値観」として受け入れず排撃している。
最近では地球温暖化問題で新興国を率い先進国と対決を強め、人権や核問題で批判されている国々も支援するなど各国の警戒を招く行動が目立つ。
中国の反対も顧みず劉氏に授賞を決めたのは大国の将来に対する国際社会の憂慮が込められている。
劉氏の判決当日、北京の裁判所には欧米の外交官が詰め掛け傍聴を拒否されると酷寒の中、屋外で抗議したが、日本の存在は全く見えなかった。劉氏受賞は中国の行方を左右する人権問題に鈍感な日本外交の在り方にも反省を迫っているのではないか。
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