『六四、一つの墳墓』と題された詩がある。米国を襲った同時テロを「9・11」と呼ぶのと同じ。「六四」とは一九八九年六月四日、民主化を求めた中国の学生らが武力弾圧された天安門事件のことである▼詩は、当時、現場にいた民主化運動の活動家、劉暁波さんが二〇〇二年につくった。<…十三年前/あの血なまぐさい夜/恐怖のために正義を守るべき銃剣が放置された/逃亡により青春を圧殺した戦車が容認された…>▼劉さんは、共産党一党独裁などを批判、〇八年に公表された「〇八憲章」の起草者の一人であり、今は、国家政権転覆扇動罪なる罪で獄中にある。その人が昨日、ことしのノーベル平和賞の受賞者に決まった▼子安宣邦・大阪大名誉教授は、あの詩も収める劉さんの著書『天安門事件から「08憲章」へ』に寄せた序文で、彼こそが、「六四」で殺された「死者たち」と「〇八」を支持する「生者たち」を一つにする存在だと指摘する。ゆえに当局は恐れるのだ、と▼確かに、中国は、劉さんに受賞させれば「中国・ノルウェー関係は悪化する」とノーベル平和賞事務局に事前の“脅し”までかけていた。似たような振る舞いは先般、日本も経験している▼何をどうしても「六四」も「〇八」も世界は忘れない。隠せない矛盾を隠そうとする無理が、最近の妙な「大国風(かぜ)」にも表れている気がする。