鈴木章北海道大学名誉教授と、根岸英一米国パデュー大学特別教授のノーベル化学賞の受賞決定を心から祝福したい。若い研究者はこれを励みに後に続き、科学技術立国を支えてほしい。
有機化合物の基本骨格は炭素でできている。この炭素同士を結合させ、新たな機能を持つ化合物を人工合成することは有機化学の分野では大きなウエートを占めている。鈴木、根岸両氏は、パラジウムなどの触媒を用いて有機化合物同士を狙い通りに結びつける「クロスカップリング」を発見したことが評価された。
それまでの有機化学の考えを根底から変えたといわれ、既に世界の医薬品開発や液晶、材料などの分野で幅広く使われている。
わが国は、遺伝子解析をはじめとするライフサイエンス、情報通信技術などの分野では米国に大きな後れをとってきた。だが、これまで材料科学とともに有機化学の分野でのわが国の功績は非常に大きい。特に「カップリング」においては圧倒的に世界をリードしてきた。今後もわが国のお家芸として国全体で支援したい。
自然科学系のノーベル賞の受賞は、一九八七年の利根川進氏(医学・生理学賞)以来、十三年間途絶えていたが、二〇〇〇年の白川英樹氏の化学賞受賞以来、ラッシュが続いている。鈴木、根岸両氏の受賞はその流れを加速した。
ノーベル賞受賞は自然科学系の中で最大級の栄誉とされ、受賞者は戦前、ドイツ、英、米、フランスと欧米に偏っていたが、戦後に限ればわが国は世界で五番目。二十一世紀に入ってからは米、英に次いで三番目に多い。この勢いを今後も維持していきたい。
わが国の科学研究は長い間、応用中心で基礎研究が弱いと指摘されてきた。だが、応用重視の中にあっても優れた基礎研究が着実に行われてきた。今回の受賞はあらためてそれを示している。
資源の乏しいわが国が生きる道は今後も科学技術立国である。
さいわい、科学技術に関して高学力を示す生徒の割合は他国と比べて決して低くない。こうした若い世代が夢と希望を持てる研究体制の構築が求められる。
わが国の研究費は増加傾向にあるとはいえ、伸び率は米国、中国に及ばない。研究費に占める政府負担割合はもともと先進国で最低だが、近年さらに低下している。
若い研究者が安心して長期的な基礎研究に取り組めるよう思い切って政府の支援を増やしたい。
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