「有機化合物の炭素同士を効率よく自在に結合させる化学反応」などといわれても、素人にはちんぷんかんぷんだが、血圧降下剤や抗がん剤などの医薬品、液晶などの工業製品に利用されていると聞けば、私たちの生活を豊かにしてくれる発見なんだなと実感できる▼スウェーデンの王立科学アカデミーはきのう、鈴木章・北海道大名誉教授、根岸英一・米パデュー大特別教授ら三人にノーベル化学賞を授与すると発表した。化学賞は二年前の下村脩・米ボストン大名誉教授に続く日本人七人目の栄誉となった▼<大事なのは事実の発見よりは価値の発見だろう>と語ったのは、九年前にノーベル化学賞を受賞した野依良治さん。医薬品や電子製品などに広く利用される有機化合物の合成技術の開発は、まさに新たな価値を生み出す発見だ▼ノーベル賞ウイークの今週、医学生理学賞の最有力候補だった京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥さんの受賞が“先送り”になり、やきもきする日が続いたが、お二人の受賞を大いに喜びたい▼「日本のような資源のない国で、理科系の発展は非常に重要。何歳まで生きられるか分からないが、若い人たちの役に立つような仕事をしていきたい」と八十歳の研究者は元気だ▼「理系離れ」といわれているが、暮らしを豊かにする創造的な仕事だと鈴木さんと根岸さんは教えてくれた。