日本と中国の首脳が会談し、関係改善を申し合わせた。今後の展開は楽観できないが、互いに依存する両国が闘えば共に傷つく。教訓をかみしめ、対抗措置の長期化や無用の挑発を避けるべきだ。
菅直人首相は四日夜(日本時間五日未明)、ブリュッセルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)の会場で中国の温家宝首相と出会い、約二十五分会談した。
双方は尖閣諸島の領有権問題では、それぞれの立場を主張したが、事件による関係悪化を「好ましくない」とし、政府間だけでなく民間レベルの交流も復活させる方針で一致した。中国は国営新華社が両首脳の顔合わせを「言葉を交わした」と報道し正式な会談と認めていない。
中国漁船船長の拘置に対する事実上の対抗措置として軍事管理区域の撮影を理由に拘束した建設会社「フジタ」の社員、高橋定さん(57)はまだ解放されていない。
中国が独占するレアアース(希土類)をはじめ、対日輸出入の制限や関税手続きの強化も終わってはいない。しかし、両国首脳が関係改善を目指すことで一致した以上、高橋さんを一刻も早く解放し対抗措置を撤廃すべきだ。
今回の事件は日中双方に身にしみる教訓を与えた。日本が中国経済に依存を深めている現実を顧みず、むやみに強硬な手段に出れば中国が「一つ一つ蛇口をしめるように」(外務省首脳)対抗措置を取り日本は打つ手がなかった。
尖閣諸島の領有権問題を顕在化させただけでなく日本は圧力に弱い国と見くびられ北方四島の返還などにも悪影響を及ぼした。
外交的には中国は勝者に見えるが、貿易上の対抗措置が長引けば日本からの輸入部品に頼る産業には大きな影響が出ただろう。
国際的にも国益のためには手段を選ばない国というイメージを広げ、国内では対外強硬論が力を得た。それは中国の発展に欠かせない平和的な国際環境を中国自身が損なうリスクを高めた。
隣り合う日中両国が闘えば共に傷つくが、平和共存できればお互いに利益をもたらす。
両国がそれを学び今後、真剣に「戦略的互恵関係」を目指すなら、今回の事件もマイナスばかりではないだろう。
そのためにも両国の政治家には見識と戦略眼を求めたい。「悪(あ)しき隣人」(枝野幸男民主党幹事長代理)などとののしり敗北のうっぷんを晴らすことは感情的対立をかきたてる最悪の姿勢である。
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