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廊下のいすに座って、25分。短い「話し合い」ではあったが、尖閣諸島沖の衝突事件で悪化した日中関係が持ち直す機会となったのはよかった。菅直人首相はアジア欧州会議(ASEM[記事全文]
景気の悪化に備え、大胆に先手を打ったという印象を内外に与えようとしたのだろう。日本銀行が新たに包括的な金融緩和に踏み切った。ゼロ金利復活をはじめ、国債などを買い取るため[記事全文]
廊下のいすに座って、25分。短い「話し合い」ではあったが、尖閣諸島沖の衝突事件で悪化した日中関係が持ち直す機会となったのはよかった。
菅直人首相はアジア欧州会議(ASEM)首脳会合が開かれたブリュッセルで、中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相と会談した。両首相は日中関係について「今の状態は好ましくない」との認識で一致し、政府間のハイレベル協議を進めることや、政府間対話と民間交流を復活させることに合意した。
衝突事件の後、青少年交流をはじめ様々な活動を止めてきたのは中国側である。首脳合意を受けて、速やかに交流を再開してもらいたい。
日本側も交流再開に協力して、関係改善に努めてほしい。
各界が望んでいた交流はほどなく再開されるだろうが、今回の首脳会談で、尖閣諸島をめぐる双方の立場が変わったわけではない。
中国側の報道によれば、温首相が「釣魚島(尖閣諸島)は中国の固有の領土である」と語った。これに対し、菅首相は「わが国固有の領土であり、領土問題は存在しない」と主張した。
埋まらない溝は溝として、両首相が関係修復へのよりどころとしたのは、自民党政権時代の安倍晋三首相が4年前に訪中し、中国側と構築に合意した「戦略的互恵関係」だ。
「友好」を旗印にしてきた日中関係を、両国は世界に対して厳粛な責任を負うという認識のもと、世界に貢献するなかで共通の利益を拡大していく関係に変えていこうというものだった。
激変する世界を前に、日中が2国間の問題にかかりっきりではいけない、との現実的な認識が共有されていた。
主権や領土がからむ対立は国民感情に大きな影響を及ぼす。今回のような事件が起きた時こそ、日中の政治指導者たちは戦略的互恵の精神に基づいて冷静な対応をすべきだったし、これからもそうである。これを機に、その意義を再認識したい。
両国政府はまず類似事件の再発防止に取り組まなければならない。海上保安当局間の協議や連携を急ぐべきだ。
戦略的互恵関係には、エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護などでの協力深化から、防衛分野の対話と交流の強化、朝鮮半島や国連改革といった地域と地球規模の課題への共同対応も盛り込まれる。
どれもこれも容易ではないが、一歩ずつ進めていくしかない。日中だけでなく同盟国の米国や欧州、アジアなどの情勢を見つめ、多角的な協働のシステムを目指すことも必要だろう。
対中関係のような難しい外交には、与野党が大局の認識を共有しておくことが大切だ。いまは政権交代時代でもある。時に対立することもあろうが、できる協力はためらうべきではない。
景気の悪化に備え、大胆に先手を打ったという印象を内外に与えようとしたのだろう。日本銀行が新たに包括的な金融緩和に踏み切った。
ゼロ金利復活をはじめ、国債などを買い取るための基金設立も含むメニューは、市場関係者の予想を超える思い切ったものになった。
日銀の緩和策は、全体として2001〜06年に行った広範な緩和政策に近い姿となる。政府が進めている経済対策との相乗効果が期待される。
金融緩和政策に手詰まり感があった中、あえて追加の緩和を決断した直後の会見で、白川方明総裁は「日銀は金融緩和のフロントランナー」と強調した。円高や米国などの経済停滞に伴う国内景気の後退、デフレ長期化への懸念をなんとしても封じ込めたいとの意欲がにじんだ。
新設する基金の規模は35兆円だが、うち30兆円分はこれまでの超低金利による資金供給が横滑りするので、本当の追加分は5兆円となる。臨時異例の措置として、期間2年以内の国債や社債、コマーシャルペーパーのほか、指数連動型上場投信(ETF)や不動産投資信託(J―REIT)といった金融資産も買い入れる。
国債の追加買い入れは、2年程度までの長めの金利を抑えて設備投資などを誘発するのが狙いだ。ただ、行き過ぎると、財政赤字の尻ぬぐいと見られかねない。基金を臨時で別勘定としたのは、そのような疑いを持たれないための苦肉の策だ。
だが、そうした理屈が通るには、財政健全化に向けた政府の決意が欠かせない。補正予算をめぐる論議では国債の増発論がくすぶるが、日銀による国債買い増しは財政への信認維持に向けた具体的な行動を政府に求める意味があると理解されるべきだ。
民間の金融機関にも、努力が問われている。企業の資金需要を掘り起こし、日本の経済と金融を正常化する努力を急がねばならない。
日銀が株式市場や不動産証券化市場に介入してETFやJ―REITを買うのは、中央銀行としては冒険だ。投資先の企業などが破綻(はたん)して日銀が大きな損失を被る恐れがある。しかし、投資家があまりにも慎重で、相場が異常に低迷した場合などには「活」を入れて反転の呼び水にするくらいは是認される、という発想である。
企業や投資家が積極的に動き出す機運を高めない限り、デフレも終わらないし、円高も克服できない。「ならば中央銀行としてできることをやろう」というギリギリの判断だが、その正しさをきちんと説明できてはいないという危うさをはらむ。
投資家の日銀頼みを助長するといった副作用も考えられる。慎重な運用に心がけねばなるまい。