臨時国会が召集され、菅直人首相が所信表明演説を行った。与党が参院で過半数に達しない「ねじれ国会」の本格的な幕開けだ。首相に困難な状況を乗り切る覚悟があるのか、あえて問いたい。
首相にとって就任後二回目となる国会演説は、政策課題を列挙した実務的な内容だ。最初の演説で強調した、公共事業などに頼らない「第三の道」や、これまで訴えてきた「最小不幸社会」などのキーワードは盛り込まれていない。
野党側との歩み寄りの余地を残すため、あえて「菅カラー」を抑えたのかもしれないが、それで政権の目指す「国のかたち」が見えなくなったのなら、本末転倒だ。
首相は二〇一〇年度補正予算の成立を「今国会の最大の課題」と位置付けた。それに異論はない。
急激な円高・株安による景気や雇用情勢の悪化に対応するための経済対策と、その財源となる補正予算を一日も早く取りまとめ、実行に移すことが重要だ。
その成否は、首相が野党の協力をどこまで得られるかにかかる。
首相は演説で「与野党間での建設的な協議に心から期待する」「野党の皆さんにも真摯(しんし)に説明を尽くし、この国の将来を考える方々と、誠実に議論する」と訴えた。
しかし、こうした言葉は、どこか人任せで空疎に響く。自ら先頭に立ち、野党から協力を得ようという気概が伝わってこないのだ。
首相の念頭にあるのは、一九九八年参院選後のねじれ国会で、民主党など野党側が提出した金融再生法案を、当時の小渕恵三首相がそのまま受け入れ、金融危機を回避した例だろう。
首相は民主党代表選の候補者討論会で「(九八年の)金融国会のように謙虚に話し合いをすれば、大きい問題であればあるほど野党も責任を感じて合意形成できることはあり得る」と語っている。
どうも首相は、自らそうしたように野党側が自発的に歩み寄ることを期待しているようだが、より重要なのは野党提案を「丸のみ」した小渕首相の決断ではないか。
ねじれ国会は、与野党が「熟議」を経て、よりよい結論を導き出す好機でもある。その積み重ねは代議制民主主義を強くする。それには、政権攻撃に終始しない野党側の態度も欠かせないが、何よりも最高指導者たる首相の熱意と覚悟が求められる。
それがないのなら「有言実行内閣」も、政策課題の「先送り一掃宣言」も、画餅(がべい)に帰す。
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