HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 03 Oct 2010 02:11:29 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える サンスーシ宮殿の憂鬱:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

週のはじめに考える サンスーシ宮殿の憂鬱

2010年10月3日

 ドイツ再統一から二十年。ベルリンの壁はなくなりましたが、新たに欧州を分断しかねない、目に見えぬ大きな壁が構築されつつあります。

 再統一に思いを致すべき時に、一冊の本がドイツで大きな波紋を広げています。

 「自壊しゆくドイツ」

 ドイツ連邦銀行の前理事ティロ・ザラツィン氏が、深刻化する一方のイスラム系移民問題への本音を吐露した本です。現地メディアに掲載された抜粋には、通常公言を憚(はばか)られる文面が満ちています。

◆知識層が代弁した本音

 「ドイツ人の出生率が現状のままだとすると次の三、四世代で人口は二千万人に減り、二一〇〇年には高出生率と移民流入があいまってイスラム系人口が三千五百万人に増加する」「孫やひ孫の世代、トルコ語やアラビア語が主流になっていたり、女性がスカーフを被(かぶ)って暮らしたり、生活リズムをイスラム寺院の音に合わせる国であってほしくない」

 ザラツィン氏をめぐっては、これまでにも「ユダヤ人には特定の遺伝子がある」「イスラム系移民の教育水準は低い」といった発言が伝えられ、メルケル首相自ら自制を促していました。

 しかし、本が書店に並ぶと、識者の批判とは裏腹に大きな評判を呼び、売り切れ店が続出、早くも六十万部を超えるベストセラーになったのです。政治家や専門家の建前の議論ではなく、日ごろ鬱積(うっせき)している本音を知識階層にある著者が代弁してくれた、と一般市民が承認を与えたかっこうです。

 ミナレット(イスラム尖塔(せんとう))建設禁止を決めたスイス、ブルカ禁止法を成立させたフランス、オランダなど各国での極右政党の躍進など、欧州各国で排斥機運は高まる一方です。

◆欧州自壊の兆し孕むのか

 イスラム系移民に留(とど)まらず、フランスでは少数民族ロマに対する追放政策も強行され、欧州連合(EU)欧州委員会が法的措置に踏み切る姿勢すら見せています。ザラツィン氏の筆法をもってすれば、ドイツの自壊を超えて、欧州の自壊の兆しをも孕(はら)んでいると言えるのかもしれません。

 ドイツはじめ欧州の移民問題は、戦後、幾つかの段階を経て現在に至っています。発端は、「ガストアルバイター(客人労働者)」の名のもと、低賃金労働力として受け入れが進められた一九六〇年代です。七〇年代の石油ショック以降、移民受け入れ制限が始まり定住化が進みました。

 九〇年のドイツ統一と、それ以降の欧州統合の促進は、周辺地域での民族紛争激化も反映し、大量の難民の流入を生みました。欧州各地の都市の風景にイスラム系移民が溢(あふ)れるようになりました。そこを狙い撃ちするように起きたのが米中枢同時テロです。

 移民第二世代は、居住地の文化には適応しきれず、出身国にも居場所がない、そんな精神的空隙(くうげき)を抱えがちです。中世回帰的な教義と、欧米合理主義への憎悪を説くイスラム原理主義は、ネット時代の情報の同時性に乗って狭隘(きょうあい)なメッセージを広め、今なお世界各地に拡散しています。

 米国のブッシュ前政権下で先鋭化した「イスラム対西欧」の確執は、オバマ政権下で転換を見て、少なくとも戦略的な対話の姿勢は示されています。この間、ドイツはじめ欧州各国の取り組みは十分だったと言えるでしょうか。

 トルコのEU加盟問題が象徴的です。欧州側は、加盟交渉には応じながら、首脳らが個別に拒否のコメントを繰り出すなど、矛盾したメッセージを放っています。イスラム系移民の主要な出身国であり、ドイツに匹敵する人口を抱える大国が加盟する事態への懸念は隠しようもありません。

 ドイツ統一時、コール首相が旧東独向けに約束した「花咲く国土の風景」にならったわけではないでしょうが、メルケル首相は「モスクがより鮮明に街の風景の一部となるようにしたい」と最近の地元紙に語っています。どう実現するのか。欧州版の「イスラムとの対話」の構築が急がれます。

◆欧州同時テロの情報も

 ベルリン郊外ポツダムに立つサンスーシ宮殿(無憂宮)。ムハンマドの風刺画を描いてイスラム諸国の大きな反発を買ったデンマークの漫画家ベスタゴー氏に対するメディア賞授与式が先日、ここで行われました。メルケル首相はあえて式典に出席し、言論の自由を含む欧州的価値観を守る断固たる姿勢を示しました。

 アフガニスタンで逮捕されたイスラム系ドイツ人容疑者の供述として欧州各地を対象にした同時テロ計画がある、と米メディアは先週伝えています。無憂宮にかかる憂いの霧は晴れません。

 

この記事を印刷する





おすすめサイト

ads by adingo