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漫才の掛け合いにこんなのがある。「あっち見てみぃ」「どこ?」「どこって、僕の指の先を見ぃ言うのや」「爪(つめ)が生えとる」――エッセイストの織田正吉さんが著作の中で紹介していた▼似たくだりが親鸞にある。指で月を指し示しているのに、指ばかり見て月を見ない。〈われ指を以(もっ)て月を指(おし)ふ、汝(なんじ)をしてこれを知らしむ、汝なんぞ指を看(み)て月を視(み)ざるやと〉。目先だけで遠くを見ない愚への戒めとも、広く解釈できよう▼尖閣諸島沖の事件をめぐる国会審議にこの話を思い出した。事件にばかり目がいって、事件の指さす先、つまり本質が視野に入っていないのではないか。原因の多くは政府の「逃げ」にあろう。論議は深まらず、将来の戦略を描く足かせにもなりかねない▼事件は外交の様々な問題をあぶり出した。検証は大事だが、手段であって目的ではあるまい。政府が取り繕うばかりでは、野党の目も「指先の爪」で止まろう。ヤジが耳障りだった一昨日の審議を見れば、外交の立て直しからは遠い▼乗じてかどうかロシアが動き出した。大統領が北方領土を近く必ず訪問すると言明した。実行すれば初めてで実効支配を強調する揺さぶりとなる。南に北に、四方の海を急に波高く感じ出した向きは少なくあるまい▼昨日からは臨時国会が始まった。所信表明の冒頭で菅首相は「政権を本格稼働させる段階に入った」と述べた。まだ補助輪付きの自転車だったかと溜(た)め息が出る。「指の先の月」を見る賢明を望めるかどうか。「爪が生えとる」では国民は浮かばれない。