沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に関する集中審議が衆院予算委員会で行われた。菅内閣の外交能力に不安を抱く国民も多かろう。国会での議論を外交立て直しの契機にしなければならない。
菅直人首相は答弁で、事件について「国民にご心配をおかけしたことはおわびする」と陳謝し、対応のまずさを認める形となった。
昨年の民主党への政権交代後、国民は、民主党外交が適切な判断の下に行われているのか否かという疑問を常に投げかけてきた。
鳩山前内閣が米軍普天間飛行場の「国外・県外移設」という公約を破り、「県内移設」に回帰したことで疑問はさらに深まり、今回の事件をめぐる対応で、それは不信へと変わったのではないか。
審議で、仙谷由人官房長官は「首相、官房長官、法相が事件処理をこうすべきと指示したことは一切ない」と、逮捕、送検した中国船船長の釈放を決めた検察判断に対する政治介入を否定した。
しかし、これでは外交案件の処理を検察に委ねたことになる。政策決定の政治主導を掲げるなら、政治の側が責任を持って決断すべきだ。「検察判断」で逃げるのは政治主導の放棄にほかならない。
仮に仙谷氏の発言が正しいのなら、検察の「外交介入」を見過ごしたことになる。菅内閣の閣僚に問題意識はないのか。野党は引き続き国会で追及してほしい。
今回の事件が日中間の外交問題に発展したのは、仙谷氏が認めるように中国側の出方を見誤ったためであり、それは民主党議員が中国要路との信頼関係を築いてこなかったことが大きな要因だ。
それは日中に限らず、日韓、日米、日ロ間にもいえる。政府間だけでなく議員間でも重層的な関係を築けば、大きな外交力になる。
ロシアのメドベージェフ大統領は、領土問題で中国と共闘する姿勢を示し、近く北方領土を訪れる考えも表明した。こうしたロシアの強硬姿勢が、民主党外交の弱みに付け込んだものだとしたら、見過ごせない。
その一方、中国はレアアース(希土類)の対日輸出を再開し、拘束していた「フジタ」の日本人社員四人のうち三人を解放した。
まだ一人が拘束されているが、こうした中国側の姿勢の変化を見極める外交的な力量も必要だ。
今回の衝突事件は、民主党外交には苦い教訓になったはずだ。この「失敗」を謙虚に受け止め、外交立て直しに生かすべきである。
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